・ ページ9
・
ロビーに降りてリチャ君を探したら
腕を組んで中庭を見てて、
薄鼠色に藍の縦縞が入った浴衣がすっきり映える。
なんだか、雪舟先生の竹みたいだなぁ……なんてぼんやり考えてたら、
ふいにリチャ君が振り返った。
リ「おぉ、」
「どうでしょう、」
からころと下駄を鳴らしながら近づいたら、
リチャ君の驚いた顔が、笑顔に変わる。
リ「似合ってんで、……綺麗やな」
「ありがとう、」
恥ずかしくてはにかんだら
リチャ君の手がそっと裾に触れる。
リ「これ、何柄なん？」
「ん？椿だよ。珍しいでしょ、冬の花なのに」
リ「へぇ、でも清風によぅ似合ってるわ」
「お互い冬生まれだからかな？」
リ「あ、簪も椿なんか」
「そうそう、せっかくなら椿にも夏を感じさせようかと」
リ「優しいんか、それ？」
簡単に束ねただけの髪の毛に
リチャ君が優しく触って、簪の先が揺れる。
リ「花みたいやな、」
「んふふ、よかった」
リ「綺麗やで」
「リチャ君に、見せたかったからね」
撫でられた手の平の体温を感じる。
あぁ、幸せだな。
リ「行こか」
「うん、」
歩きなれない浴衣を気遣って歩き出したら、
自然とリチャ君が手を繋いでくれて、
ホテルを出たら
おんなじようなカップルが楽しそうに同じ方向に歩いてた。
祭囃子が近づいてきて、
ぽつぽつ屋台が見えてきて、
ソースのいい匂いがして。
お祭りが近づいてる気配に、自然とテンションがあがる。
リ「なに食べる？」
「そうだなぁ、たこ焼き食べたい。リチャ君は？」
リ「焼き鳥とビール」
「あ、そう言えばホテルのウェルカムドリンク飲みそびれたね」
リ「あぁ、……ま、帰ってからでもええやろ」
「あれ、さてはリチャ君ちょっと飲んだ？」
リ「……りんごカクテル、1杯だけ」
「裏切り者め」
リ「すんません、たこ焼き奢るから許して」
「それなら許す」
リ「助かります」
「帰ったら2人で飲もうね」
目に入ったたこ焼きの屋台に並んで
そんな話をして。
8月頭の花火大会みたいに大きな祭りじゃないらしくて
花火があがる一番近く以外はそれなりに座れて、
2人で買ったたこ焼きと焼き鳥とビールとサワーで
乾杯する。
リ「はぁ……、美味い」
「サワーが美味しい」
リ「この焼き鳥うまいな、食う？」
「お、じゃあ一口」
たこ焼きも焼き鳥も交換しながら
のんびり花火を待つ。
こんなに穏やかな花火大会、初めてだ。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 176人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：マリア | 作成日時：2023年10月12日 22時
