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「ウェルカムドリンクあったね、リチャ君」
リ「せっかくやし飲んでくか？
どーせ会場のは高いやろし」
「いいね、」
フロントで手続きをして部屋にあがる。
竹が植わった中庭、枯山水や鹿威しが見えて
どうやら思ってたよりずっといいホテルらしいって気づいてから
ちょっとそわそわする。
リ「503……ここやんな」
カードキーのガチャって音がして
部屋を開けたら、
ふわっとイ草の匂いがした。
「うわぁ、いい匂い、」
書道部の畳は使い古してるし墨の匂いが染みついてるから
こんなに新鮮な匂いはしないし、
部屋に入って不躾にもすぐに寝転んでしまう。
リ「清風、」
「あ、ごめんねリチャ君。つい、」
リ「えぇ匂いする？」
「うん、」
リ「ほんなら俺も、」
珍しく隣に寝転んでくれたリチャ君を見てたら
ぱちっと目が合う。
リ「なによ」
「いや。嬉しいなぁって」
リ「なに、今更(笑)」
「リチャ君と旅行してる感がしてきて」
リ「楽しそうやもんな、清風」
「リチャ君も楽しんでるんでしょ？」
リ「まぁ、それなりにな」
「それなりかぁ、私だけか。すっごく楽しんでるのは」
リ「そんなん言い方ズルいって」
肩から上を起こして抗議したリチャ君が
そのまま近づいてきて、
「ん、」
笑ってた唇に、キスが降ってきて。
リ「……ちゃんと、楽しんでるから」
穏やかに微笑んだ表情に、胸が高鳴ってるのが分かった。
恥ずかしいのかそのまま離れようとするリチャ君の腕を掴んで
今度は自分から唇を重ねる。
さっきより少しだけゆっくり、
幸せをめいっぱい感じ取れるように。
ちゅ、と小さく音を立てて離れる唇。
「リチャ君、連れてきてくれてありがとう」
リ「どういたしまして。
ついて来てくれてありがとうな」
「どういたしまして、」
お互いそう言い合って、目が合って、
どちらからともなく、もう一度キスをした。
・
夕方頃には行こうかって話をしてたのに
ちょっと休憩してる間に
すっかり空は茜色より藍が深くなってて、
「そろそろ行こか」ってことでようやく浴衣に袖を通した。
「見ててもいいよ」って言ったのに、
「外出てるわ」って断られて
先に浴衣に着替えたリチャ君とはロビーで待ち合わせすることに。
こっそり練習した浴衣の着付けをして、
メークが崩れてないか確認して、
最後に姿見でもう一度見る。
我ながら、いつもより幸せそうな顔してた。
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作者名：マリア | 作成日時：2023年10月12日 22時
