・ ページ48
・
まだ少し寝ぼけてて腕に頭を擦りつけたら、
ユキさんの笑う声が横から聞こえる。
結「大晴くんって、本当に気持ちよさそうに寝るよね。
赤ちゃんみたい」
「赤ちゃんちゃうもん、」
結「そう？」
髪の毛にそっと触れる感触。
隣を見たら、ユキさんが俺の髪の毛を撫でてて。
「ユキさんに、髪撫でられてる」
結「うん、撫でてる」
もっと撫でてほしいから
指先に当たるように頭を振ってみる。
結「かわいい、」
「カッコえぇ、」
結「説得力ないなぁ」
「カッコえぇも言うて、」
結「だめ、」
ユキさんの言う『だめ』は甘くて
ほんまにだめなん？って疑ってまいそう。
ズルいよなって思いながら
それでも髪の毛は撫でられたまんまで
もっかい、このまま寝たい。
結「こらこら、帰るよ？」
「……イヤや」
結「もう、明日本番なんだからお家で寝ないと」
「じゃあお家まで連れて帰って、」
結「あらら。どうしようね、」
理性働いてへんもん、口からすらすら言葉出てくる。
必死に頭起こしたけどぽやぽやしてたら、
結「じゃあ駅までね？
そこまで連れてってあげる」
困った顔してるユキさんに見つめられて、
さすがに頭も冴えてきた。
「はぁい、」
結「よし、それなら行こっか？」
バッグ持って立ち上がった俺の左手を、ユキさんが取る。
「え、」
そのまま手を引いて歩き出したユキさんに
めっちゃ焦って。
「ユキさん、手、」
結「連れて帰る、って言ったでしょ？」
ちら、と振り返って微笑んで
すぐ前を向く。
ポニーテールしてる髪の毛から見える耳が、
蛍光灯の下でも少し分かるぐらいに赤くて
それ見た俺も、熱くなって。
「暑い、っすね、」
結「そうだね、」
それっきり、何も話せへんまま2人で手を繋いで歩いた。
いつもの通学路が、いつもと違って見えて
時間はあっという間で。
駅の明かりが眩しく見えてきて、ユキさんが立ち止まった。
結「1人で帰れる？」
ここで「帰れへん」って言ったら、どうするんやろ。
そんな意地悪思いついたけど、
それはまた今度にして、今日は「はい」って頷く。
結「そっか、」
そう言って笑ったユキさんが、手を離した。
結「明日、頑張ってね」
「はい、」
結「それじゃ、おやすみ」
「おやすみなさい、ユキさん」
照れくさそうに笑ったユキさんが歩き出す。
『夏バケ』が終わったら。
静かに決意を固めて、小さくなる背中を見送ってた。
★第9回新入生公演『夏バケ』→←〇もっと、近くにいて？-Orange
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 176人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：マリア | 作成日時：2023年10月12日 22時
