◆〇本気になりたい理由があるから ページ39
・side.Taisei
トントン、
ガチャ、
「お疲れさまでぇす、あ、」
結「あ、大晴くん。お疲れ様」
リハが終わって脚本会議のために部室に行ったら、
まだユキさんしかおらへんかった。
コピー機で何かを大量に印刷してるユキさんの横顔は
昨日よりかは顔色えぇけど、
やっぱりまだ真っ白で。
多分、西陽がもうちょい眩しかったら、
眩んでそんまま消えてまうと思うくらい。
「ユキさん、ほんまに大丈夫っすか？」
結「ん？何が？」
「体調。まだ寝てた方が」
結「大丈夫だよ(笑)
今日も誠也くんから学食ごちそうになっちゃったしね。
元気いっぱい」
いや、そんなほっそい腕むきってしてもなぁ……
心配そうな顔してたんやろう俺を見て、
ユキさんは苦笑いして近くに椅子に座った。
結「……少し、昔話をしてもいい？」
「昔話？」
結「そう。
って言っても、去年の新入生公演の話なんだけどね」
上目遣いに、不安そうにこっちを見た視線に
あ、って気が引き締まった。
ユキさんがその話してくれんねやって。
それならって空いてた椅子に俺も座ったら、
「どうぞ、」
促した手に小っちゃく笑って、
ユキさんは息を吐いた。
結「元々、脚本セクションには私ともう1人、同級生がいて。
新入生公演の脚本は、2人で話し合って決めてって言われてた。
だけど、もう1人の子に押し切られるような感じで
私は、自分の脚本を諦めた。
……逃げた、って言った方が正しいかも知れない。
自分の意見を通すことから逃げたんだよ。
だけど、結局色々あって私の脚本が採用されてね」
“色々”
そんな簡単な言葉で片づけてえぇはずがないのに。
当事者でもないくせに、俺の方が悔しくて力が入ってまう。
結「本当はね、私の脚本は完成してなかったの。
まだ手直し前の第一稿でね。
だけど、時間がなくてそのまま行くしかなかった。
公演が終わった後、OBの人が
『話が少し甘かった』って言ってるのを聞いて、
……中途半端な脚本で、みんなに芝居をさせてしまったことが
申し訳なくて、」
穏やかに言うてるけど、
ユキさんの眉間には皺が寄ってて。
エアコンの音と、印刷するコピー機の音が
やたら大きく聞こえる。
結「だから、次はもう逃げちゃいけないって。
私も、みんなも堂々と胸を張れるような話を書かなきゃいけないって。
『欲動』『夏バケ』って書いてきたけど、
……本当は苦しかった」
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作者名：マリア | 作成日時：2023年10月12日 22時
