◆〇私の大事な場所 ページ36
・side.Yuki
朝になって
「一旦家戻ってから行くわ」って言う正門と駅前で別れて
1人でホール棟に行く。
大事なリハーサルに穴を開けてしまったことが
今更のように罪悪感として襲ってきて、
足取りは、かなり重い。
誠也くん、怒ってるよね。
起きてから確認したら、
『こっちは大丈夫やから、ゆっくり寝とき』って連絡が入ってたけど
誠也くんが演劇に向き合う熱量を知ってるからこそ、
やっぱり緊張してしまう。
ホール棟の階段を昇るごとに
緊張はどんどん増えていって。
扉に手をかけた自分の手が少し、震えてた。
「……はは、」
この感じ、懐かしいな。
『ジュエリーゼ』の脚本を
初めてみんなに読んでもらった時みたい。
本当に私は何度、
不甲斐ない姿を演劇部に見せてるんだろう。
―……嫌いになりそうや、全部―
泣きながらそう呟いた大晴くんの顔が
忘れられなくて。
私のせいだ、
私が頼りないところを見せちゃったから。
後悔する手の平に力がこもる。
それでも、
できれば脚本のことは嫌いにならないでほしいなって
一体、何様の立場で願えるんだろうね。
乾いた笑みを浮かべたら、
ガチャッ、ギィ……
大「あ、……ユキさん！！」
「えっ、きゃ！」
扉が開いた先に大晴くんがいて、
目が合った瞬間、
キラキラした笑顔で抱きしめられた。
大「もう外出て大丈夫なん？」
頭に回った手が髪の毛を撫でて、
耳元にかかる声がくすぐったい。
「う、うん。大丈夫。
昨日、ゼリーとかも食べたし」
大「よかったぁ……」
その声は、本当に心からそう思ってくれてるみたいで
何でか私が泣きそうになった。
鼻を啜った音に気付いた大晴くんが
「え！？」って顔を覗き込んできて、
大「泣いてるん？ユキさん」
「ううん、でも……ほっとしたの」
大「なんで？」
「……だって、もう大晴くんと仲直りできないと思って」
そう言ったら、バツの悪そうな顔して離れていった大晴くん。
「あぁ、それは……」って黒くなった髪の毛を触ってる。
大「すみませんでした、」
その言葉と一緒に、深く下げられた頭にビックリする。
「いや、大晴くんはなにも、」
大「俺に気ぃ遣って1人で頑張ってくれてたユキさんに
ひどいこと言ったんは俺やから。
やから、謝らせてください。
そんで、ちゃんと仲直りさせて。ね？」
にこっと笑った顔に見つめられて
胸のどこかが、きゅっとなった。
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作者名：マリア | 作成日時：2023年10月12日 22時
