◆追いかける熱量 ページ34
・side.Taisei
「はようございまぁす……」
寝不足過ぎて眠い目擦りながら
ホールの重たい扉開けたら、
誠「お疲れさん。早いな」
「誠也くんやってめっちゃ早いやないっすか」
まだだぁれもおらへんやろと思ったのに
客席の真ん前の席に誠也くんが座ってて。
誠「なに？自主練？」
「ちゃいます、早めに来て寝とこと思って。
ギリに目覚まししたら寝坊しそうやったから(苦笑)」
誠「なんやねん。
偉いんか偉ないんか分からへんな」
2人きりやといつもの高音ツッコミも控えめで
穏やかな誠也くんの1個飛ばして隣の席に座る。
誠「……昨日のことで寝れへんかったん？」
「まぁ、……それもありますけど。
普通に家帰ったんが遅かったってのもあります」
誠「は？何してん」
「キク子さんに去年の新入生公演の映像見せてもらってて」
誠「菊好が？
えらい変なタイミングやな」
「多分……、俺に見せたかったんやと思います」
誠「大晴に？」
「俺が昨日、ユキさんに怒鳴ってもうたから」
誠「は、」
めっちゃびっくりした顔で俺を見る誠也くん。
まぁ、そうやろな。
自分でも分かりやすすぎるくらいユキさんにメロメロやもん。
そんな俺が怒鳴ったって、相当やって思うよな。
誠「……何があったん、」
珍しく遠慮がちに聞いてくる誠也くんに
ちょっと苦笑いしながら、昨日あったことを全部話した。
誠「……やから、あんな落ち込んでたんか」
「リハに迷惑かけたんは、マジで反省してます。
……今思えば、八つ当たりやったんです。
俺だけ、何も知らんままやってん。
ユキさん優しいから、
新入生公演あるし俺に気ぃ遣ってくれたんやろうなぁって
今考えれば、すぐ思いつくのに。
……、悔しくて。
俺ってそんな頼りになれへんのかなって。
それで、つい、カッとなって……」
八つ当たりもえぇところや。
俺が勝手にユキさんのことが好きで、力になりたいだけで、
よぅ考えたら
簡単なところの台詞ちょっと任されたぐらいの素人に
相談なんてできひんよな。
そんな当たり前のことも、考えられへんくらい
あの時はムキになって。
でも、それでも。
「正直、……怖かったんです。
ユキさん、ほんまに死んじゃうかもって。
あんな青白い顔したユキさん見てられへんもん。
そりゃ、脚本やって大事やけど、
倒れてもうたら、元も子もないやん……」
好きな人に、ただ笑っててほしいのに。
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作者名：マリア | 作成日時：2023年10月12日 22時
