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誠也くんの声は静かに、でもぴん、と糸を張ったような
緊張が走る。
誠「気持ちは分かる。
みんなやって多分おんなじや。
けどな、リハできる時間も限られてんねん。
お前がおらな、できひんシーンいっぱいあんねん。
……優先する順番、間違えんな」
「……、」
誠「あと2時間経ったら、昼休憩やから。な、」
「……はい、」
その通りや。
俺はこの舞台の主役の1人で、
今は大事なリハ中で、
あと3日もすれば本番で。
誠「気持ち、切り替えられるな」
「はい、」
ちゃんとしよう。
ここでなぁなぁになったら、ほんましょーもないから。
頬を何発か叩いて気持ちを無理やり飛ばしたら、
下手に入る。
阿「大丈夫か、大晴？」
「おん。いけんで」
今は、目の前のことに集中せな。
誠「よし、じゃあリハ再開すんで。
二手に分かれるシーンから行くぞ。
よぉーい、……」
・
昼休憩に入った瞬間、
昼飯も全部ほったらかして医務室に走った。
めっちゃ走った。
いつ見ても覚えられへん地味な建物の入り口に駆け込んだら、
キク子さんが椅子に座ってて。
「キク子さん！あ、あ……あの、ユキさんは、」
菊「大晴、……大丈夫。
ただの栄養失調と寝不足やって。
今、まっさんがついてる」
「寝不足？栄養失調？なんで」
菊「……そっか、大晴には何も話してへんのやな。
ユキは」
「なに、何の話っすか？」
菊「学祭公演の脚本の〆切、今週末なんよ」
「え、……そうなんすか、」
菊「巽先輩、実修でとうとう脚本書けへんかったみたいで
ユキが引き継いだんやけど。
スランプっていうか、その……まったく書けてないんやって」
寂しそうに話すキク子さんの手が
結んでは開いて、忙しない。
菊「……ずっとパソコン噛り付いて書いてたけど
いいネタ浮かばんかったんやろうな。
顔色悪いなとは思ってたけど、
まさかこの2週間、ろくに食べも寝てもないって聞いて、」
目に、じわりと涙が滲む。
菊「……何してたんやろうな、自分。
友達が、こんなアホやってるん気づかへんって」
ぽたり、手に落ちた涙を
そのまま。
キク子さんは静かに泣いてた。
菊「あの子が、1人で全部背負いこもうとする癖、
知ってたはずなのに。
1年前、それに助けられたんは、私やったのに」
それきり、キク子さんは何も言わへんで。
肩を震わせて泣くキク子さんを見て、
隣の扉を開けた。
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作者名：マリア | 作成日時：2023年10月12日 22時
