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「そんな、私なんて……」
正門先輩に褒められることなんて、1つもないのに。
じわっと滲んでくる涙が目に痛い。
良「お芝居に衣装に小道具に、って
全部一生懸命なエリーちゃんを見とって元気もらってたんは
多分俺だけやなくて。
『えらいな、頑張ってるな』っってみんなも思ってて。
……けど応援だけやあかんかったよな。
ごめんな、1人で悩ませてもうて」
居ずまいを正して「ごめん、」って
頭をさげる正門先輩にビックリして顔があがる。
「ま、正門先輩やめてくださいっ！
皆さんは全然、悪くないんです！
私が要領が悪いせいで、
本当、全部、私が悪いんです……」
抑えきれなくて零れた涙がジャージに染みてく。
良「ゆっくりでえぇよ、全部聞くから」
そう言って頭を撫でられたら、
ずっと言い出せなかった弱音も、自然と口をついて、
「……いっぱいいっぱいになっちゃったんです。
役者も、裏方も頑張ろうとしたけど、どっちも中途半端で。
私、ここにいていいのかなって自信がなくなっちゃって。
演劇部のみんな、すごい人たちばかりだから。
皆さん優しくて、楽しくて、
だから、迷惑を、これ以上かけたくなくって。
私なんか、もう辞めなきゃ、って思って……」
だけど、すぐ楽しかった思い出が過って。
それがなくなっちゃうのが寂しくて、悲しくて、
本当は、演劇部を辞めたくなくて。
良「……去年の新入生公演、
実は主役の子の名前が“エリーちゃん”やったって知ってる？」
「……はい、結城先輩から聞きました」
正門先輩は小さく頷いて
私の頬に残った涙をそっと拭った。
良「『ジュエリーゼ』って舞台やってんけど、
自由奔放で色恋沙汰が絶えへんエリーゼと、
気が弱くて周りに馴染めないエリって2人の女の子が
ケンカとかしながら少しずつ変わってくお話やねん。
それで、俺はその“エリーちゃん”達を応援しながら
こっそり恋してる男の役やったんよ」
「……恋、」
良「そ、まぁ脚本上は恋してる描写なんてまったくなかったけど、
俺は勝手に恋してるつもりで役を作りこんでた」
「それは……どっちのエリーちゃんに、ですか？」
良「うーん、両方かな。ちょっと軽い男かも知らんけど(笑)」
にこっと笑った正門先輩の表情はいつもと少し違って、
あ。きっと今、その時の男の子の役が戻ってるんだろうなって
なんとなく思った。
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作者名：マリア | 作成日時：2023年10月12日 22時
