◆ジレンマと自信 ページ11
・side.Ellie
健「“あ！おった！
阿「“いやなんやねん雪童って！”」
大「“確か、この辺りの妖怪って”」
「“だ、だれが妖怪よ、だれが”」
香「ちょっと止めて。
小島、もう少しそこの反応オーバーめにできる？」
健「うっす」
あ、こじけんくんか……。
よかった、って思ったのも束の間、
香「あとエリーちゃんは台詞もっとはっきりね。
じゃないとここ締まらないからって
前も言ったかも知れないけど」
「す、すみません……」
やっぱり自分も指摘されちゃって、すぐに謝る。
演出の香坂先輩は真面目で
しっかり指導してくれる頼もしい先輩なんだけど、
ちょっとだけ怖くて。
新入生公演まであと2週間切ったのに
私が初歩的なミスばかりしちゃうから
怒られるのはしょうがないんだけど。
香「そろそろ全体を見る段階に行きたいからさ。
あんまり同じところで躓きたくないのね？」
「はい、」
香「初心者なのは分かってるけど、
そこに甘えるのはもう止めよ。いい？」
「……はい、すみません」
ピリピリしてる香坂先輩の顔は見れなくて、俯くしかなくって。
最初の方は結城先輩が「カオさん、まぁまぁ」って
声をかけてくれたりもしたけど、
最近は全然、稽古場に来てくれなくなっちゃったし。
……ううん、いけないよね。
悪いのは私なのに、
先輩達を悪者みたいな言い方しちゃ。
香「じゃあ次、のっ子と4人の長いとこやるよ」
―はい―
今日は、稽古だけだっけ？
あ、違う。
誠也先輩に頼まれたアクセサリー買いに行かなきゃ。
来週までに衣装で使うものの一覧表作らなきゃだし、
小道具も確か来週打ち合わせがあって、
香「エリーちゃん、何してるの。早く位置ついて」
「えっ、あ、はい！」
あれ、次どこだっけ？
あ、のっ子の過去話するところ。
あれ、
台詞、何からだっけ。
香「行くよー、よーい、はい、」
台詞がまだ思い出せないまま演技が始まって、
何となく合わせて動くけど台詞が出てこない。
どうしよう、
どうしよう、
健「“ってかのっ子って、ほんまは何者なん？”」
こじけんくんと目が合う。
ここから私の台詞、
どうしよう。何も出てこない。
口が、カラカラする。
健「“のっ子？”」
アクセサリー、台詞、小道具
稽古、打ち合わせ
のっ子
台詞
台詞
台詞、
健「……エリー？」
「……っ、」
頭の中、真っ白だ。
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作者名：マリア | 作成日時：2023年10月12日 22時
