〇◆スランプ‐Blue. ページ1
・side.Yoshinori
「誠也くんら海楽しんでんなぁ」
部室の机に突っ伏してSNS見てたら
大晴とこじけんにびっしょびしょに濡らされてる
誠也くんの動画が流れてきて、
「結城、見て」
スマホの画面ひっくり返したら
虚ろにパソコンに向かってた目が、ちらっとこっちを見た。
結「……楽しそう。誕生日だもんね、誠也くん」
「あれ、今日やったっけ？」
結「うん、それでお祝いに海行きましょって
こじけんくんと大晴くんが誘ったらしいよ」
「へーえぇなぁ。俺、誘われてないんやけど」
結「車の定員とかあるんでしょ、しょうがないよ」
「今度飯行きましょって言ってみよっかな。
2人やと部活の話になりそうやし何人か誘ってさ。
あ、結城も来ぉへん？」
結「……そうだね、」
あらら、息抜きさせたかったのに。
パソコンに戻ってしまった瞳はまた虚ろになってて。
さっきからずっと文字を打っては消してを繰り返してる。
新入生公演は再来週にやっと終わるけど、
息つく暇もなくもう次の学祭公演の準備を始めなあかんくて。
学祭公演は1年で一番規模もでかい公演やし、
部員全員参加やから
おのづと話もボリュームのあるものが求められる訳やけど。
3年の脚本の巽先輩が実修で
いよいよ学祭公演無理そうって分かったのが8月頭。
そこからちょっとずつ、結城の顔色は悪なる一方で。
大晴もおるけど、
新入生公演控えてるからって結城は気ぃ使って相談してへんみたいやし、
『優しすぎて壊れちゃいそう』ってエリーも言うてたけど、
ほんまに、その少し前の状況が今やと思う。
今日も部室に朝からこもってたみたいで、
俺が来た時には、感情が抜け落ちた顔してた。
「……無理そうやったら、無理せんでえぇよ。
脚本探すのは俺らやって手伝えるし、」
新入生公演が終わる週には
脚本の締め切りが来る。
もし、間に合わへんかった時は。
結城も頑張ってくれてるけど
シビアにその時はやってくる。
結「……何とかするよ」
「せやけど、」
結「それとも、面白くないかな？もう、私の
「誰もそんなん、」
そこまで言って
自嘲気味に笑った結城と目が合った。
結「ごめん、……八つ当たりした」
「……えぇよ」
頭を撫でたら、みるみる泣きそうに顔が歪んで
見てられなくて抱きしめた。
結「……苦しい、正門」
弱々しい声ときゅ、と掴まれる裾。
……もっと強く、縋りついてもえぇのに。
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作者名：マリア | 作成日時：2023年10月12日 22時
