・ ページ10
・
「……なんか、その格好で言われると
章次郎さんに言われてるみたいだね」
結城先輩が照れたように笑って
正門先輩も笑って。
良「えぇ？ほんなら、
……
“俺と一緒に、堕ちてくれる？”」
一歩近づいて、結城先輩を覗き込んだ正門先輩の手が
そっと頬を撫でる。
どうしよう、
目を塞ぐべきか、
手がぴくぴくする。
上目遣いに正門先輩を見た結城先輩が微笑む。
結「……台詞が違うよ、正門？
“俺も一緒に堕ちてあげる”じゃないと」
良「え(笑)」
「え、」
思ったのと違う流れに、正門先輩と同じタイミングで声が出た。
良「うそぉん、そこ気になるとこ(笑)？」
結「当たり前じゃない、脚本書いたの私なんだよ？」
良「厳しいってぇ、アドリブ入れさせてや(笑)」
結「やだ」
けらけら笑いながら眉をさげてる正門先輩と
してやったり顔の結城先輩。
もう……、
胸が、ドキドキしすぎて止まるかと思った。
まだちょっと動悸がする胸を押さえる。
結「それに、正門は一緒に堕ちてはくれないでしょ？
勝手に堕ちるのを突き放すけど」
良「あ、またイマジナリー正門に悪い印象を」
結「これは事実、」
良「まぁ、完全に否定はできへんけど」
あぁ、この会話のすべてが
18年間一度も通ってきたことのない道すぎて
生々しくて耳を塞いじゃいそう。
良「でも、結城が落ちる時は一緒に堕ちんで？
……、そういう正門でいてほしいんやろ？」
結「……本当にずるいね、正門は」
顔があげきれなくて目に入る視線の前。
浴衣のゆったりした袖を、結城先輩の指が
つい、と引っ張っていて。
掴まれてない方の正門先輩の手が、白い指先をそっと握る。
後ろは大騒ぎ、
周りは自分のことばかり。
私だけが見ているワンシーン。
私だけの、胸の苦しさ。
結「後で、りんご飴食べたい」
良「今からでもええよ？」
結「今は、だめ」
良「ふふ、わかった」
この舞台の私は、背景でしかないみたいだ。
健「ちょぉ！誠也くん！」
誠「正門！乾杯や！」
良「え、えぇ？誠也くんこれで何杯目なん(笑)」
リ「助けて正門俺じゃ制御できひん」
良「嘘やん俺も無理ですって(笑)」
呆れたように笑った正門先輩が
そっと結城先輩の手をほどいて離れていく。
唐突な終幕に、
溜まっていた息がゆっくり出て行く。
ようやく顔をあげたら
残された結城先輩は
想像したよりずっと、寂しそうな顔をしてた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 142人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：マリア | 作成日時：2023年9月4日 20時
