〇何でもお見通しなのはお互い様-Blue. ページ40
・side.Yuki
エリーちゃんがお手洗いに行って
船室に1人きり。
まだ初日なのに甲板で大騒ぎしてるキク子達を見ながら
不意に、まなぁちゃんと目が合って。
本当に行っちゃうんだって。
寂しくて。
泣きそうになったからこっそり離れて帰ってきたけれど。
船室の重低音に揺られてたら
つい、色々思い出しすぎる。
―ありがとう、結城ちゃん。
この脚本で戦ってくれて―
あぁ、だめだね。
今、それを思い出したら、本当に泣いちゃうのに。
ガチャ、
あ、いけない。
エリーちゃんが帰ってきたから
こっそり浮かんだ涙を拭う。
良「……ゆーき、泣いてるん？」
後ろから聞こえた声は
想像してた声と違って。
え、と振り返る前に、
良「だいじょうぶ？」
三角座りしてる脚の間に
見慣れたジーパンがくっついてきて
背中から抱きしめられていた。
「……酒臭い、正門」
良「ははっ、ごめんなぁ？
どっかの誰かさんが『私の送別会で飲めないの！？』って
悪酔いしてるもんやから」
「まなぁちゃん、珍しいね」
良「まぁ寂しいんやろ。1年もおらん訳やし」
「そうだよね……」
1年
その言葉の響きが
思っよりずっと響いてしまって、
お腹に回った太い腕を思わず掴む。
良「ゆーきも寂しいって思ってるんやないかなぁって、
抜け出そうとしたけど、時間かかっちゃった」
「ごめんな」って
肩に顎をすり寄せる正門の髪が頬に当たる。
「いいよ、エリーちゃんとおしゃべりしてたから」
良「エリーと？珍しいなぁ、ゆーきが後輩としゃべるって」
「うん、『ジュエリーゼ』の話とか久しぶりにしちゃった」
良「えぇ？なんでよ」
「正門の“エリーちゃん”呼びに既視感があって」
良「まぁ……、意識してないこともないんやけどな」
「そうかなと思ってた」
良「やっぱゆーきにはお見通しか」
「だって、私が書いたもの」
良「そぉやな、……えぇ芝居やった。
あれが新入生公演でほんまによかったって、今でも思うてるで？
俺も、同期のみんなも」
「……ありがとう」
優しい正門の声に甘えるように
少し顔を右に寄せたら
正門の頬と重なる。
その、思ってたよりもずっと熱い体温に驚いて横を向いたら、
良「ん？どしたん？」
思ってたよりも、ずっとずっと甘い表情をした正門と目が合って。
身体の奥がとろけるような熱っぽい視線に
まんまと捕まった。
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作者名：マリア | 作成日時：2023年9月4日 20時
