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健「……でも、あかんのやけどな」
「え？なにが？」
私の言葉に
小島先輩は髪の毛をくしゃっと触って。
健「たいせー、今ガチ恋中やから」
「え……、」
申し訳なさそうに眉をさげて
そう言った小島先輩。
視線が大水槽の方に行く。
何か話してるのか、楽しそうに笑ってるほたるちゃん。
あんなに、かわえぇのに。
健「ごめん、よっしー」
「どうして、」
健「……2人きりやったら来てくれへんと思ったから」
「えっ、」
「一旦、ここ離れよ」って
小島先輩の手が私の腕を掴んで
大水槽と反対側に歩き出す。
掴まれた腕が、
こんなにひんやりしてる水族館の中でも熱くて。
いつもよりラフな小島先輩の後ろ姿に
胸が苦しくなってくる。
なんで、なんでなん。
先輩。
なんでそんなこと言うの。
背中にしか問いかけることはできなくて、
しばらくついて行ったら
暗い室内から急に真っ白な外に出た。
一気に身体が熱を浴びる。
「小島先輩、」
声をかけたら
速足に歩いてた先輩の足が止まる。
振り返った先輩は
困ったように笑って手を離した。
健「よっしー、俺とおるの疲れるっていつも言うてるやんか。
そんな俺と一日水族館ってしょーみしんどいかなと思って」
「あ、」
確かに、よく「先輩といると疲れる」とは
言ってたけど。
けどそれは、本当は
一緒にいると疲れるくらい笑いすぎて、楽しくて、
そういうことを
素直に言えない私の口が、そう言ってしまっていて。
それを律儀な小島先輩は気にしてた。
だから、
「……ごめんなさい、」
健「おん。戻ろ」
「本当は、」
ちゃんと、言わな。
顔をあげたら
小島先輩と目が合って。
それだけで、唇がふるふるして。
「本当は、……疲れてなかったり、します」
あぁ、またこんなん
素直に言えへんのやろ、私。
ほたるちゃんみたいに
分かりやすい訳でもないのに。
ちゃんと言わな、また傷つけるのに。
健「えぇの？俺と2人でも」
「はい、……疲れるのは、楽しいからで、
本当は、ずっと楽しくて」
健「……、そうやったんか」
「そうかぁ……」と
深い、ため息みたいな声が零れて
小島先輩がくしゃ、と髪の毛を触る。
私が正直やなかったせいで
ほたるちゃん、巻き込んでしまった。
私のせいや。
申し訳なくて、息が苦しくなる。
ごめん、ほたるちゃん
ごめん。
健「よっしー」
目の前が小島先輩の匂いでいっぱいになった。
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作者名：マリア | 作成日時：2023年9月4日 20時
