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章次郎と出会って露子は心惹かれていくけれど
章次郎の周りには常にたくさんの女がおって、
それに耐えきれない露子は
章次郎を詰って、
別れを告げて、
でも、やっぱり章次郎への恋心を捨てきれへんくて。
挙句の果てに章次郎に心中を持ちかける。
“ねぇ、死んでしまいましょう？章次郎さん。
私、もうきっと、貴方がいないところでは息もできないの”
“ふふ……、かわえぇなぁ。
ほんま、なんでこないにかわいくて怯えた顔してんねやろ。
俺だけがあんたの生きるも死ぬも握ってる。
大丈夫、怖くないよ。
俺はあんたが心の底から好きやで。大好きや。”
スポットライトだけが照らした舞台の上で
ゆっくり2人の唇が重なる。
健「(あれ、ほんまにしてへん？)」
「(え、やっぱそうなん？)」
会場中がうっとりと息を飲む。
恋情に溺れていく男と女の憐れな接吻。
きっと、これから2人で心中してしまうやっていう悲壮感に
会場が1つになっていた。
“げほっ、章、次郎さん……っ”
先に毒を煽って倒れる露子を看取る章次郎。
“あかんなぁ……、まぁた1人や”
一緒に死にきれへんかったことを嘆き悲しむラストシーン。
章次郎が舞台上を動き回って慟哭する。
“あぁ……、俺はいくじなしや……。”
床に突っ伏して、泣いて、
“ゆうき……、”
え、こんな台詞ないけど、
“ゆうきだけが、足りひんかった”
“俺はいくじなしや”
“愛してる……”
そう言って死んだ露子に抱きついて、
“……愛してる”
細い首に指を食いこませて、章次郎は確かに笑ってた。
ひぃ、と引き攣るように空気が震えて
舞台が暗転する。
え、今のなに？
まっさんのアドリブ？
一瞬の沈黙の後、一気に会場がざわつき始めた。
健「……今のヤバかったな」
「おん、」
健「あれ、まっさんの完全アドリブやんな」
「多分、」
健「今ので物語の解釈が180度変わんで」
「そうやな」
こそこそ声をかけてきたこじけんは
興奮してんのか目ぇバッキバキで。
けど、俺も多分目ぇバッキバキやったと思う。
だってまだ理解できてへんもん。
あれがなんだったんか。
ぶわぁっと鳥肌立った腕撫でながら話しとったら
エンディングテーマが流れ出して、
会場中の割れるような拍手に包まれて
舞台の真ん中にまっさんが出てくる。
深々とお辞儀をしたまっさんはやりきった笑顔で
いつもよりずっと男前に見えた。
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作者名：マリア | 作成日時：2023年8月18日 15時
