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自販機横の、いつでも人が来れるようなスペースで
そんなことできるはずないのに。
だけど正門の熱っぽい瞳に見つめられたら、
そんな破廉恥すら誘われてしまいそうで、
本当にズルい人。
「……今の正門は、本当の正門？
それとも章次郎さん？」
正門の台詞に被せて言葉を返したら、
艶めかしい口許がニヤッと笑みを深める。
良「どっちやと思う？」
「章次郎さんだったらいいなって思ってる」
良「ふふっ、……そんならしゃあないわ(笑)
そういうことにしといて」
へにょんと眉を下げていつもの笑い方に戻った正門が
隣にしゃがみこむ。
“キスしたなる”
炭酸のペットボトルに口づける横顔に
その台詞が過って、
「ねぇ、正門」
良「ん？」
くりっと大きい瞳が私を見あげる。
「……ううん、やっぱりなんでもない」
きっと、これは今聞かなくてもいいことだから。
また今度でも、
或いはずっと、
良「結城」
いつの間にか立ちあがってた正門を
今度は私が少し見上げる。
良「結城を甘やかすんは俺の役目やから、
何でも遠慮せんと言ってえぇんやで？」
「……うん、ありがとう。正門」
くしゃ、と優しく私の髪を撫でたら
「さて、腹減ったな」って背伸びする正門は本当に優しい人で。
良「結城は夕飯どうするん？」
「今日はしょうが焼きにしようと思って」
良「うわ、えぇなぁ！メニュー聞いたらお腹減ってきた(笑)」
「食べていく？」
良「え！えぇの？
ほんなら皿洗いと食後のアイスでご厄介になってもえぇ？」
「ふふっ、ごちそうさまです」
良「こちらこそ」
「ほんなら先にスーパー行こ」って
歩き出す正門のTシャツの裾をきゅ、と摘まんでみる。
良「ん？なに？」
「ううん、ちょっとイジワルしたくなって」
良「ははっ、悪い子やなぁ(笑)
悪戯されへんようにちゃんと捕まえとかな」
そうやって、私の右手はあっさり正門の左手に捕まって。
良「クリムトの画集、後で見てもえぇ？」
「いいよ、よかったら貸そうか？」
良「いや、1人で見るんはなんかやましい感じするしなぁ」
「じゃあ、私となら見れるの？」
良「あ、それもそれであかんか(笑)」
「ふふっ、えち門(笑)」
良「ちょ、その呼び方やめや？誤解生むで？」
必死に抗議してくる正門が可笑しくてけらけら笑いながら
変わりかけた信号を慌てて渡る。
繋いだ手の温度はお互い少し熱くて、
それがすごく心地よかった。
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作者名：マリア | 作成日時：2023年8月18日 15時
