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「なんかごめんね」
良「えぇって。考査お疲れさんって
ちょっとした気持ちやから気にせんと飲み？」
自販機の前でどっちが奢るかで少し問答した末、
結局正門に押し切られちゃって。
納得はいってないけど
せっかく貰ったソーダの蓋を開けたら、
ぷしゅ、って夏の音がした。
良「結城は夏休み予定とかないん？」
「うーん、特にはないかなぁ。
子ども向けのイベント展があるから
バイトは少し多めに入ろうと思ってるけど」
良「美術館の受付やったよな。
えぇよな絵画。最近ゴッホ観たいって思ってん」
「ゴッホかぁ、うちの規模じゃ滅多に見れないだろうなぁ。
国立とか府立ってなったらあるだろうけど」
良「そうなんや。ちなみに結城の最近のおすすめは？」
「あぁ……最近だとクリムトかな」
良「へぇ、どんな絵なん？」
興味津々の正門に
何気ない素振りで検索した絵を見せてみたら、
「あら」なんて大袈裟に口許に隠して。
良「……え っちやなぁ」
好奇心とはまた違う、蠱惑的な瞳にじっと見つめられる。
……そんな表情してくれたらいいな、って思ってた。
そう言ったら、
今の正門は何て返してくれるんだろう。
なんて、良くない冗談は胸にしまっておいて。
「でも惹かれるでしょう？
『欲動』書いてる間はずっと画集を見てたんだよ」
良「あ、これ見ながら『欲動』書いてたん？
そら、あぁもなるわ(笑)」
「でしょ(笑)」
良「この接吻してるんが章次郎と露子なん？」
「まぁ、一応」
良「……ほんまは結城やったりして」
「え？」
良「だってあんな艶話書いてんねんで？
結城にもそういう“欲動”があったりするんかなぁって」
艶やかな微笑みを浮かべて
「ちゃう？」って覗き込んでくる正門から目を逸らす。
良「こっち向いてや、お嬢さん」
「だめ、」
良「結城の『だめ』はズルいからなぁ。
『もっと』って意味の時もあるクセに」
「それは、正門が勝手に」
良「俺が勝手に、なによ？」
それ以上言ったらまた“イジワル”をされそうで
逃げようとしたのに
大きい手に両頬を包まれて、正門から目が離せなくなる。
良「お顔、真っ赤になってんで？」
頬骨をじれったく撫でる指先に疼く身体をぐっと踏ん張る。
良「ほんまにかわえぇなぁ……、こんままキスしたなる」
「ここじゃだめだよ、」
良「その『だめ』はほんまのだめ？
それとも『やめちゃだめ』？」
「そ、それは」
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作者名：マリア | 作成日時：2023年8月18日 15時
