〇雨上がりの会話劇‐Blue. ページ38
・side.Yuki
「あ、雨あがってる」
前期最後の考査が終わって校舎を出たら
朝から降ってた雨はすっかり止んでた。
そろそろ、梅雨も明けるんだろうなぁ。
そんなことをぼんやり考えながら夕暮れの構内を歩いてたら、
良「結城」
柔らかくて少し甘いいつもの声に振り返ると
ひらひら手を振りながら正門が近寄ってくる。
「正門」
良「今、帰り？」
「うん、ようやく考査から解放されたところ」
良「それはそれは。お疲れさんでした」
「ありがとう」
図書館の帰りらしい正門とは駅まで帰り道が一緒で、
雨上がりのもわっとするアスファルトを
なんてことない話をしながらのんびり歩く。
良「ひゃあ、7科目もあんの？
俺やったら何個落としてることか(笑)
お勉強嫌いでも何とか助かってるわ」
「ふふっ、正門なら筆記も器用にこなしそうだけどね。
それに通常考査の代わりに芸音は実技査定があるでしょ？
先生達の前で舞台に立つって思ったら
そっちの方が足が竦んじゃいそうだもの。
だからきっとお互い様だよ」
良「ま、それもそうやな(笑)」
大学を出て駅方向の道に曲がったら、
いかにも「夏休み！」って出で立ちの小学生が
アイス片手にわいわい通り過ぎていった。
良「俺らもいよいよ夏休みやなぁ」
「そうだね、しばらくは忙しそうだけど」
良「新入生公演の脚本？」
「そう、今週が一応締め切りだから」
良「あらら、大丈夫そうなん？」
「今回は前上演してた舞台のリメイクだし、
いつもよりは見通しは立ってるよ。
先輩方の作品をいじる訳だから多少気は遣うけど」
良「そうやんなぁ、設定もちょっと前のものやったし。
あ、そう言えば大晴も今回から脚本入れんねやろ？」
「うん、主人公の高校生4人組の会話シーンは
大晴くんに考えてもらってる。
この間まで現役だったから書きやすいかなと思って」
良「“現役”なぁ(笑)
俺らも2，3年前までは現役やったのになぁ。
やっぱ1年組見とったら「若いなぁ」って思うもんな(笑)」
「おじ門さん(笑)」
良「こら、そんなん言うんやめなさい」
つんって怒ってるふりして唇を尖らせてる正門は
それが可愛いって分かっててやってるから、あざとくて。
「ごめんね、お詫びに好きなものどうぞ？」
駅前の自販機で立ち止まったのは
もう少しおしゃべりしたい気分だったから、なんて
きっと私も大概だ。
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作者名：マリア | 作成日時：2023年8月18日 15時
