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ドキドキのギアがもう1個あがった気がした。
え、「まさか」みたいな展開ある……？
なんて淡い期待も込めて見つめ返したら
ユキさんはあっさり目を逸らして、
結「ごめん。急にこんな事聞かれても困るよね(苦笑)」
ふふ、って笑った顔はちょっと物憂げで。
「何かあったんですか？」
結「ううん。
……ただ、自分の気持ちを名前をつけるのって
勇気がいるなぁと思っただけ」
そう言ってユキさんはぷらぷらと爪先を揺らしながら、
小さく溜め息を吐いた。
結「私は、自分の気持ちに名前をつけることからよく逃げるから
ちゃんと向き合える人はすごいなって」
ユキさんの抽象的な話はいまいち意図が掴めんくて。
やけど、「分からへん」って諦めるんはイヤやから
頑張って自分なりに考えてみる。
「やから、俺に好きな人おるか聞いたんすか？」
結「うん、……なんとなくだけど、
大晴くんはそういう勇気を持ってる気がしたから」
「まぁ、それは合ってる気ぃします、けど……」
けど、やん。
確かにその勇気はあるかも知れへんけど、
相手が気付いてくれないならその勇気は意味がなくて。
俯くユキさんの視界に俺はまだ映ってないんやろ？
やったら、
「ユキさん、」
こっち見てや、ってほんのり色づいた頬に
手を伸ばしかけた瞬間、
ガラガラッ、
良「結城おる……って、あらら。
なんかお邪魔しちゃった？」
暖簾から顔を出したまっさんが俺らを見つけて眉を下げる。
ユキさんが「正門、」ってふにゃって名前呼んだら、
まっさんも嬉しそうに微笑むから
胸の奥がチクってした。
結「どうかしたの？」
良「いや、ぼちぼちラストオーダーやから声かけにきてんけど」
結「あらら、じゃあもう戻らなきゃだね。
大晴くんはどうする？」
「あー……、もうちょいいます。先戻っててください」
結「そっか、分かった」
「遅くならないようにね」って俺の頭を撫でたら、
ユキさんはまっさんの隣に行ってもうて。
良「……なぁ、正門も我慢の限界が近いねんけど」
結「お疲れ様。アイスでも食べて元気出して」
良「あ、えぇなぁ。2人で半分こせぇへん？」
「ふふっ、分かった」
相変わらず仲えぇ2人を見送って、
でっかい溜息をついたら夜空を見あげた。
「……自分の気持ちに名前を、か」
どうしたら気づいてもらえるんやろうなぁ。
とっくに俺の気持ちは“恋”って名前つけてんねんけどな。
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作者名：マリア | 作成日時：2023年8月18日 15時
