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「だから……っ」



それ以上、

言葉が続かなかったのは

涙が溢れたからじゃなくて、



良「……」



目の前の正門先輩が初めて見る表情(かお)をしてたから。



アーモンド型のくりくりした瞳が微かに震えて、


ぽてっとした柔らかそうな唇はぐっとへの字に歪む。


そのカッコいいお顔は、

まるで今にも泣き出しそうな子どもみたいで、


気づいたら自然と手が伸びてた。



「正門先輩、」



抱き締めてあげたい。


頭を撫でて「大丈夫だよ」って言ってあげたい。



良「……あかんよ、触ったら」



ぐいっと払いのけられた腕が行き場を失う。



良「俺に触らんといて」



……どうして。



その言葉の代わりに、涙が一筋頬を伝っていった。



良「そんな資格、ないから」


「……そう、ですか」



それ以上、私から伝えられる言葉は何もなくて。


前髪に隠れた先輩の横顔を最後にちらっとだけ見て、

立ちあがったらそのまま振り返らず稽古場から出た。



バタン、


「……っ」



身体中の力が抜けてもう立ってられない。


でも、早く行かなきゃ。


先輩たちが帰ってきちゃうから。



長い階段をよろよろ降りながら何度も頬を拭うけど、

ずっと涙が止まらなくって。



どうして、あんな表情をしたんですか?


正門先輩は何に苦しんでるんですか?


何に怯えて手を振り払ったんですか?



私、まだ分からないんです。


だってこんなに人を好きになったのは初めてだから。



こんな私じゃ正門先輩の力になれないのかな。


苦しんでる先輩の手を引っ張ってあげることはできないのかな。



情けないな。


どんなに変わっても、好きな人に手も届かないなんて。



「うぅ……っ」



必死に嗚咽を堪えながら最後の階段を降りきったら、



健「エリー」

「こじけん、くん……っ」



私を見つけてベンチから立ち上がったこじけんくんに

我慢できなくなって駆け寄ったらそのまま抱きついた。



健「……ごめん。辛い役させて、ほんまにごめん」

「ううんっ、いいの……!

 いつかは、けじめつけなきゃって、思ってたからっ」



しゃくりあげながら紡ぐ拙い私の言葉を

こじけんくんは「うん、」って頷きながら聞いてくれて、



健「エリーはえらいよ。エリーも、大晴も。

 ……ほんまによぉ頑張りました」


「うぅっ、うわぁあぁぁ……!」



頭を撫でたこじけんの手の優しさに甘えて、

子どもみたいにぼろぼろ声をあげて泣いた。

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マリア(プロフ) - ろにくまさん» ろにくまさんお久しぶりです!現実逃避の場にしてくださってたのに不甲斐ない事になりすみせん。私にとってはろにくまさんのコメントが暖かくて今も嬉しくて仕方ありません。過去作はバリバリ書き直してますのでそのうち必ず戻ってきます。その時はぜひまた。 (3月28日 2時) (レス) id: 98df0cf24d (このIDを非表示/違反報告)
ろにくま(プロフ) - 長くなってしまいましたが、どうか無理をなさらず、マリアさんにも私にも彼にも彼らにも、幸せが訪れることを祈っております。 (3月26日 1時) (レス) @page7 id: 2f3320c7da (このIDを非表示/違反報告)
ろにくま(プロフ) - マリアさんが大切にこの物語を綴ってくださるおかけで、キミ恋!は私の現実逃避の場となっていました。私のような読者の拠り所になれる、暖かい場所を作ってくださりありがとうございます。 (3月26日 1時) (レス) @page7 id: 2f3320c7da (このIDを非表示/違反報告)
ろにくま(プロフ) - お久しぶりです。私もあの日から年末に感じた苦しさとはまた違った苦しさを感じております。彼以外を好きな方との気持ちの差や5人で進む現実に潰されてしまいそうな日々です。 (3月26日 1時) (レス) @page7 id: 2f3320c7da (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:マリア | 作成日時:2024年3月9日 0時

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