〇不意打ちはよろしくない-Yellow ページ8
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トントン、
リ「
入ってよろしいでしょうか」
筆に墨を含ませる瞬間は、一番緊張する。
書きたい文字のイメージを固めて、
筆を整えて、
……ガチャ、
リ「あ、おった。お邪魔しまーす……」
半紙と向かい合って文字が浮かんできたら、
筆を持つ。
払う、
止める、
払う、
軽く止めて、撥ねる。
筆を進めるごとに口の中が渇いていって
時間が一瞬にも、永遠にも感じる。
曲げる、
すっと伸ばして、軽く撥ねる。
長く払う、
「……ふぅ、」
止まってた息を吐きだしたら、筆を置く。
リ「……終わったん？」
「え。あ……ごめん。リチャ君」
横を見て初めて、リチャ君がそこにいたことに気づいた。
怒っちゃったかな？
じっと固まってるリチャ君を恐る恐る覗いてみる。
「リチャ、君？」
リ「……やっぱ上手いわ、」
畳に座り込んで半紙を見つめるリチャ君は
「うん、えぇ」って何度も頷いて、
「大丈夫そう？」
リ「おん。絶対2年も喜ぶと思う」
「ならよかった」
リ「ほんまにえぇやん。題字にぴたっとハマってる。
やっぱ清風に頼んでよかったわ」
大きな目をくしゃっとして笑うリチャ君に、ほっと息を吐いた。
「今度やる舞台の題字を筆で書いてほしい」って
初めて聞いた時はどうなることかと思ったけれど。
どうにか注文はクリアできたらしい。
リ「あっ、ところで今更やねんけど俺、ここおって大丈夫やった？」
「えっ？あぁ、今は誰もいないから」
3限の講義中っていうのもあって書道部の部室に
リチャ君と2人きり。
ほっとするリチャ君を横目に道具の片付けをしてたら
リチャ君は物珍しそうに部室をきょろきょろしてて、
リ「いっつも思ってたんやけど、
書道部の部室って墨の匂いして落ち着くよな」
「そう？苦手な人もいるらしいけどね」
リ「へぇ、そうなん？なんでやろうなぁ……」
「えっ、ちょっとリチャ君、」
急に腕を引っ張られて
後ろからすっぽり抱き留められて。
リ「……あぁ、やっぱそうや」
何かに納得したように頷いて離れるリチャ君に
私の頭はまだ追いつかない。
「何がやっぱりなの？」
リ「ん？いや、清風から墨の匂いがするから。
やからこんな落ち着くんやなぁって、プチ発見した(笑)」
そんな可愛いこと言って嬉しそうに微笑むんだから、
「ふふっ、そっか(笑)」
私の恋人はタチが悪い。
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作者名：マリア | 作成日時：2023年8月11日 17時
