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パタンッ、
『失礼します……、あ。おった、』
健『「おった」ってなんやねん。
俺は部室に現れるレアポケモンちゃうぞ』
『いや、だって、』
卒業式後ですよ？
卒業生のクラスは写真撮ったり胴上げしたりで大騒ぎやのに。
誰よりはしゃいでそうな小島先輩が
ここにいることが不思議で。
けど、どっかで「いるかも」って思ったから、ここに来た訳で。
健『部室に別れの儀式してかなあかんなと思ってん。
もう戻るとこ』
『何ですか儀式って……』
自分ではツッコんでたつもりやけど、
ちゃんとツッコめてたんかな。
造花を胸に挿した小島先輩を見て
本当に卒業しちゃうんだ、って必死に涙を堪えてたから。
健『春の大会観に行くから頑張ってな』
『はい、』
健『新部長、あとは君に任せた！』
『はい、』
健『……ほんまは寂しい？』
『はい、』
健『そんなはっきり言わんといてや(笑)』
だって、本当のことやから。
それでも最後まで素直になれない私は、俯いて手を握りしめるばかりで。
卒業なんてしないでください。
そんな無茶なワガママに必死に蓋をしてた。
健『よっしー』
目の前に制服のズボンが映る。
健『これあげるわ』
差し出された手に乗ってたのは、胸元に刺さってた桜の造花。
『なんで、』
健『まぁ……、よっしーって花似合うんちゃう？多分』
『多分、』
健『いや、あの……似合うから。やから、貰って』
そっぽ向きながらちょっと強引に渡された花は
少しあったかくて、大事に握りしめる。
『……小島先輩。大学に行っても演劇続けますか？』
健『続けんで、絶対』
『そうですか……よかった』
何の迷いもなくそう言ってくれた。
それだけで、もう大丈夫。
『小島先輩』
健『ん？』
『卒業おめでとうございます。
……もし、同じ大学行けたら、また一緒に演劇してもいいですか』
健『当たり前やろ。……待ってんで、よっしー』
『はい、』
頭をグシャグシャに撫でて出て行った小島先輩を
笑顔で見送ったあの日から、また季節は巡って。
キーンコーンカーンコーン、
―吉澤さん、もう下校時間よ？―
「すみません、もう帰ります」
―受験生なんやから部活もほどほどにね？―
「はい、先生さようなら」
先生に部室の鍵を預けて夕暮れの廊下を歩く。
―待ってんで、―
「……帰ったら勉強しなきゃ、」
長いようで短い高校最後の1年は、まだ始まったばかり。
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作者名：マリア | 作成日時：2023年8月11日 17時
