・ ページ43
・
―良かったら正門呼んできましょうか？
多分その辺にいると思うけど―
「いえ！……大丈夫です、私、もう帰りますから」
―いいんですか？―
「はい。今日は有難うございました。それじゃ、」
じっと見るのも失礼に思えるくらい綺麗なお姉さんから
逃げ出すようにホールを出たら、
ぴん、と張ってた糸が切れたみたいに
6月の湿った空気が急にもわっと漂ってくる。
―正門クン、次うちと撮ってー？―
良「えぇー、まだおるん？」
―ひどいっ、ずっと待ってたのにぃ！―
良「はいはい(苦笑)ピースでえぇの？」
入り口のすぐ横で女の子達に囲まれてる正門先輩を
ちらっと見て、唇をきゅっと噛む。
なんだろう、この気持ち。
―あ、お嬢ちゃんさっきの。おーい、まっさん！―
「あっ、お気遣いなく！」
さっきの親切なお兄さんが手を挙げてくれるのを遮って、
思わず走って逃げだしてた。
走ってでもないと、気持ちが落ち着かなくって。
ドキドキして。
もやもやして。
ムズムズして。
なに？この気持ちなに？こんなの知らないもん、
良「エリーちゃん！」
「えっ、」
降ってくるように声が聞こえて
上を向いたら1階上の階段から息を切らした正門先輩が
「ちょ、そこにおってな」って
困ったように笑ってて。
きゅ、って胸が苦しくなる。
どうしよう、来てほしくないけど、会いたい、なんて。
良「はぁ、よかったぁ。ぎりぎり間に合うて」
カタカタ音を立てながら降りてきた正門先輩は
衣装の浴衣に下駄のままで、
そんな恰好でここまで走ってきてくれたんだって申し訳ないのと、
でも嬉しいとで言葉が詰まる。
良「来てくれてたんなら、言うてくれればよかったのに」
「す、すみません。受付の人から準備に行ったって、聞いたので」
良「あー、女の子らにそう言うといてって
こじけんに言うたん忘れとった(苦笑)
ごめんな？けど嬉しいわ、エリーちゃんに観てもらえて」
さらっとそんな事を言えちゃう正門先輩は
どこか主人公の章次郎さんと重なって見えちゃう。
良「どうやった？俺らの舞台は」
「あ、えっと、素敵でした。けど、その、」
良「うん、えぇよ。正直に言うて？」
「その……見ては、いけないものを見ちゃったというか……。
すっごく、ハレンチな気分、です」
良「え？」
あ、いけない。
そう思った時にはもう時遅しで。
「えっ、いやその！」
私、なんてこと言っちゃったんだろ……！
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 169人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：マリア | 作成日時：2023年8月11日 17時
