キミ、カオル。I【すとぷり】

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side…さとみくん


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『おかえり』



その言葉を聞いた瞬間。


キミから大粒の涙が溢れ出す。


でも、その涙を打ち消すぐらいキミは笑う。



｢……あ、会いたかっ、た｣



小さな声だったけど確かに耳に届いた。



俺は手を伸ばす。



愛おしい。




笑顔も。


照れ顔も。


泣き顔も。



全部。



｢全部、俺のものになればいい｣



誰にも聞こえない。


俺の中に渦巻く。



━━━━━━━━欲望



手に取った細い手首を引く。

他のメンバーに見せつけるように抱きしめる。



｢A｣



誰も知らない。


俺からメンバーへの。



━━━━━━━━宣戦布告



｢……さとみくん？｣



その一言に俺の中を支配していた独占欲がすっと引いて。


途端に恥ずかしくなってくる。


俺は赤くなっている頬と自然と口角が上がってしまう口元を隠して、目線をそらす。



｢あっ……と、あのー合格おめでとう｣



挙動不審な俺を見てAはキョトンとしている。
俺は無理やり笑顔を作る。



｢き、今日はあれだな。……ぱ、パーティーだな！｣


｢いいね！パーティー！｣


｢Aの歓迎会だー！｣



莉犬ところんが乗ってきてくれたおかげ俺の行動は咎められなかった。



｢今日はもう、お店閉めちゃおうか｣


｢パーティーするなら買い出し行かなきゃですね｣



やると決めたら直ぐに動き出すのが俺らだ。


テンポについていけていないAが棒立ちになっている。



｢はよ、着替えてきな。一緒に買い出し行くやろ？｣


｢うん！｣



ジェルにそう促されてやっと動き出したA。


嬉しそうに自室へと駆けていく背中を見守る。



｢好きだよ｣



キミに届くことない俺の言葉は宙に舞って消える。




その瞬間、キミが振り向く。


俺は一瞬聞こえてしまったのかと思ってドキッとする。




｢みんな｣




そんな俺の不安もキミの笑顔に溶けていく。





｢大好き｣





ほらまた。


無自覚に人の心を攫ってく。



死ぬんじゃないかと思うぐらい脈打つ心臓。


キミは満足気にまた背を向けて走っていく。




俺は顔を隠すように座り込む。


今は全員に向けられた『大好き』だけど。





いつか。





いつか必ず。







俺だけの『大好き』に。


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