了 ページ29
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肌に着いた血、白の髪には染められたかの様に赤が描かれている。少し乾いて赤黒くなったそれは、青白い肌にも美しくこべりついていた。
真っ黒な光を通さない瞳はそのままで自身の部屋を目指してゆく。
手には握られて皺になったあの婚姻届が握られていた。
部屋に入り、外から少しだけ漏れる光だけを頼りに辺りを見渡すが、女は見当たらない。
夜景が照らす寝室へと入れば、外へと体を向けて寝息も聞こえずに眠る女へと近づく。
巨大な真っ白なベッドへと腰掛ければ女の頬を撫でた。
彼女の左手に嵌められた、外の灯を閉じ込めるシルバーのマリッジリングをゆっくりと抜けば、それを掌の上で転がす。
助けられたのは自分の方だった。少しでも彼女と居たら本当の自分に戻れた。佐野万次郎で居る事が出来たのだ。柄にも無く幸せだと思ってしまった。皮肉な事にその幸せは続く事は無かったが。
「もっと早く会いたかった」
そしたら、何かこの未来が変わっていたのかもしれない。彼女と自分が笑い合っている未来があったのかもしれない。
気がついた想いはもう遅かった。
愛してる、という言葉は置いていかずに彼女を置いて行く。寝室から出て、握った婚姻届に書かれた彼女の名前をなぞる。
この名前を口にする事は無かった。もう語り合う事も顔を見る事も無い。これで最期であった。
扉に寄りかかって座り込み、薄明るい部屋を眺める。頬をつたう生温い感覚には気が付かないフリをした。
女は男が部屋を出て行くと閉じていた目を開け、自身の指輪の跡が着いた薬指を眺める。
これから夢寐にも忘れる事の出来ないであろう彼を思って。
ベッドに付いた香水と部屋に残った血の混ざった匂いを感じながら我儘を零した。
「次は強引にでも攫ってよ」
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湊嘩(プロフ) - 初コメ失礼します。作者様の作品はこれが初めてだったのですが、表現力や語彙、文章力が凄まじくて一気読みしてしまいました。私の語彙力が低くて申し訳ないのですが、本当に面白かったです。長文すみません。本当にありがとうございました！ (2021年9月21日 19時) (
レス) @page30 id: 1ab5df6e8d (このIDを非表示/違反報告)
苺ミルク飴(プロフ) - 完結おめでとうございます！文章力とか語彙力が素晴らしすぎて、何回も読んでしまいます！すごく読み応えがあって、とても面白かったです！素敵な作品をありがとうございました！それとお疲れ様です！他の作品の更新等頑張ってください！応援してます！ (2021年8月24日 12時) (レス) id: 976df8db05 (このIDを非表示/違反報告)
ましゅまろぽっぷ(プロフ) - とっても面白いです！応援しています。更新頑張って下さい (2021年8月4日 12時) (レス) id: 0077bb053c (このIDを非表示/違反報告)
ユキ(プロフ) - いつも楽しく読ませてもらってます！更新お待ちしてます！！ (2021年7月24日 23時) (レス) id: 631cb64e08 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：田中 | 作成日時：2021年7月4日 16時
