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男が隠家へ行くため路地裏へ足を進めると女が膝を曲げ、しゃがみ込んでいる姿が目に入った。近くには雑に買い物袋が置かれている。
女は手首を曝け出して足元に転がる小さな猫を優しい手つきで撫でている。あぁ、アイツか。と、佐野は彼女の腕から覗いた目立つ淡い青を確認して思う。ふと、女の横顔が溶けそうな笑みを浮かべている事に気が付いた。佐野はその光景を突っ立って少し眺めるとその女に近づき、猫を前にして女の隣に腰を下ろす。
女は隣からの足音も無しについと感じたふわりと香った匂いと服の擦れる音に驚いて、すっと焦って立ち上がり、その場から距離をとった。
佐野はそんな彼女を、しゃがんで腰を丸めたまま見上げる。
「ネコ好きなの」
彼女が愛でていた猫は佐野の前で寝転がる。首元を撫でてやるとゴロゴロと気持ちが良さそうに喉を鳴らした。
「ご、ごめんなさ」
女は佐野に何かを重ねて怯え、震える声で謝罪の言葉を必死に紡ぐ。
そんな女を自身の頬に無垢な白い髪を揺らして掠めさせ、佐野は見上げた。
世間から見たら自分は悪で。自ら黒に成り下がったのに。何故、目の前の彼女を救いたいという考えが少しでも過ぎったのだろうか。何故、嘗てのあの仲間の様に彼女のヒーローに少しでも成りたいと思ったのか。彼女も十二天が殺した人間の内の一人と思い込めば良いだけなのに。
佐野の体は斯様な自身の心中も置き去りにすっと立ち上がり、猫に向けていた下駄の前つぼを彼女に向けた。
「来ないで」
彼女は怯えた表情のまま佐野にそう言い放った。佐野は刺激しない様に少しだけ彼女へと足を進める。
「その腕の怪我」
「あ、貴方に関係無い」
「そのままで良いのかよ」
「貴方に何が分かるの！？あの人と居るのが私にとって幸せなの！入ってこないでよ･･･。」
女のまろい白い頬に透明な雫が一つ伝った。
私はあの人の事を愛しているのだ。この体に出来た傷も私が彼を怒らせてしまったから。私が全部悪いの。私にとっての彼は私の全てなの。なのに何で今泣いてるの。
「辛そうだけど。今オマエ。さっきみたいに家で笑えてねぇだろ」
「うるさい。やめてよ･･･。辞めて」
「死ぬなら。死にたくなったらオレに言え」
「ぇ、ど、ゆう」
「オレが殺す」
戸惑う女を置いて男が吐き出した言葉。女は歪んだ視界の中で自分に背を向け、路地裏の奥へと歩いて行く男の項に描かれた刺青を朦朧としながら見ることしか出来なかった。
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湊嘩(プロフ) - 初コメ失礼します。作者様の作品はこれが初めてだったのですが、表現力や語彙、文章力が凄まじくて一気読みしてしまいました。私の語彙力が低くて申し訳ないのですが、本当に面白かったです。長文すみません。本当にありがとうございました！ (2021年9月21日 19時) (
レス) @page30 id: 1ab5df6e8d (このIDを非表示/違反報告)
苺ミルク飴(プロフ) - 完結おめでとうございます！文章力とか語彙力が素晴らしすぎて、何回も読んでしまいます！すごく読み応えがあって、とても面白かったです！素敵な作品をありがとうございました！それとお疲れ様です！他の作品の更新等頑張ってください！応援してます！ (2021年8月24日 12時) (レス) id: 976df8db05 (このIDを非表示/違反報告)
ましゅまろぽっぷ(プロフ) - とっても面白いです！応援しています。更新頑張って下さい (2021年8月4日 12時) (レス) id: 0077bb053c (このIDを非表示/違反報告)
ユキ(プロフ) - いつも楽しく読ませてもらってます！更新お待ちしてます！！ (2021年7月24日 23時) (レス) id: 631cb64e08 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：田中 | 作成日時：2021年7月4日 16時
