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「もう眠くないの？」
「うん。オレあんま寝ねぇから」
「眠れないの？」
彼女の問いに佐野は薄く艶やかな笑みを浮かべるばかりで答えることは無かった。
女はそんな佐野の様子に腑に落ちないで居るが、佐野の部下が買ってきた材料を手にし、佐野の好物であるオムライスを作り始めた。佐野は隣で女が料理をする後ろ姿を見るばかりで、手伝おうともせずに壁に寄しかかって、ずっとせっせと働く女を眺めていた。
懐かしい良い匂いがしてきたと思えば白い皿には見目の良いオムライスが一つ置かれていた。
佐野はあれ、と疑問に思って彼女の後ろ姿に声を掛ける。
「自分のは？」
「私の？」
「うん。腹減ってねぇの」
「ちょっと空いたけど･･･」
「じゃ、一緒に食べよ」
「え、良いの？」
「？うん」
女は家ではあの男と一緒に食事をする事は無いのだ。作った物があの男の口に合わなければ直ぐに作り直さなければならないから。食べる暇も与えられていないのだ。
佐野はそんな彼女の様子に疑問に思ったが、直ぐにあの男が関係しているのだと察する。
彼女は次に自分の分の夕飯を作り始めた。佐野は彼女が作り終えるまで、自分の夕飯が冷める事も気にせずに後ろ姿を眺め続けた。
「出来た」
数分が経ち、女は料理を背にしてくるりと後ろを振り返り、食器棚に寄りかかる佐野に目を向けた。佐野は一言礼を言うと、テーブルへとスプーンや飲み物を運び出す。女も其れを真似て自身が造ったものをテーブルへと置いた。
佐野はリモコンを手にし、テレビをつけ、ニュース番組から適当に他のチャンネルへと変える。其れは歌番組で、佐野も女も知らない曲がつらつらと流れ出す。佐野は其れに目を向けようともせずに聞き流し、目の前の自身の好物に手を合わせて一言「いただきます」と小さく零し、スプーンですくい、口へと運んだ。
そんな様子を女は自身の食事には手を付けず、何処か心配そうに見詰める。彼の口に合わなかったらどうしようかと心配に思っているのだ。
佐野はその視線に気がついた様で頬張った好物をグッと飲み込んだ。
「美味いよ。ありがと」
「良かった」
彼女はほっとした様に嬉しそうに顔を綻ばさせ、やっと、自身の目の前に置かれているオムライスに手を付け出すのだった。
テレビからの賑やかな音を二人して聞き流すだけで、二人の間には会話は無かった。
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湊嘩(プロフ) - 初コメ失礼します。作者様の作品はこれが初めてだったのですが、表現力や語彙、文章力が凄まじくて一気読みしてしまいました。私の語彙力が低くて申し訳ないのですが、本当に面白かったです。長文すみません。本当にありがとうございました！ (2021年9月21日 19時) (
レス) @page30 id: 1ab5df6e8d (このIDを非表示/違反報告)
苺ミルク飴(プロフ) - 完結おめでとうございます！文章力とか語彙力が素晴らしすぎて、何回も読んでしまいます！すごく読み応えがあって、とても面白かったです！素敵な作品をありがとうございました！それとお疲れ様です！他の作品の更新等頑張ってください！応援してます！ (2021年8月24日 12時) (レス) id: 976df8db05 (このIDを非表示/違反報告)
ましゅまろぽっぷ(プロフ) - とっても面白いです！応援しています。更新頑張って下さい (2021年8月4日 12時) (レス) id: 0077bb053c (このIDを非表示/違反報告)
ユキ(プロフ) - いつも楽しく読ませてもらってます！更新お待ちしてます！！ (2021年7月24日 23時) (レス) id: 631cb64e08 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：田中 | 作成日時：2021年7月4日 16時
