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佐野が次にその女のあったのはそれから間もない日のことであった。また、あの路地裏で鉢合わせたのだ。女は前と同じ様に季節に合わない長袖から青白い手を少し覗かせていた。やはり顔は俯かせていて自分に気がついて居ない様子である。
「なぁ」
ふと横を通り過ぎた彼女に声を掛ける。自分でも何故呼び止めたのか分からない。つい口から呼び止める言葉が出ていたのだ。女は此方に顔を上げて振り向いた。
男と目が合うとはっと脅えた様子で目を見開き、早々と此処から去ろうとする。そんな彼女の腕を男が掴むと先日と同じく空気を必死に飲む様に浅い呼吸を繰り返し始めた。
掴んだ腕からザラザラと肌触りの悪い感じがして男は彼女の手の甲を地面に向ける。すると、そこには先日よりも少し淡くなった紫の痣の上に細い瘡蓋の様な赤の跡が幾つも乗っかかっていた。彼女に付けられた、まだ自分の腕に残る爪痕に似ているそれを眺めながら男は振りほどこうとする手を掴み続ける。
「離して」
女は男をキッと睨みながら、強がりながら言った。だが、浅く速い呼吸や酷く脅えた表現は隠せていない。
何故また此処で会ってしまったのだ。何時も使うこの道にすれ違う人なんて居ないのに。何で。また怒られちゃうじゃない。女はそう酷く泣きそうになりながら目の前の自分の腕を離さない男を睨み続けた。
「逃げれば」
何を言ってるのだ。この人は。
男は深い隈を作った目を此方に向けて息を吐くように当たり前の事を言う様に首を傾げながら言った。女はこの男の言葉が分からなかった。何から逃げるというのか。
「 は、離して」
女がもう一度そう言うと佐野はあっさりと強く掴んでいた手を放した。
早く帰らなくては。早くこの握られた腕を洗わないと。彼が帰ってくる前に早くあの男の匂いを落とさなければ。急いで家に帰って掴まれた腕を洗う。
女は爪を立てて自分の腕を神経質に洗った。女は別に先日殺すと言われたからあの男を怖がっていた訳では無い。彼に他の男と関わったとバレたら怒られてしまうからである。十分程が経っただろうか。彼の好きな石鹸の香りのする赤くなった腕を見て女は酷く安心するのだった。
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湊嘩(プロフ) - 初コメ失礼します。作者様の作品はこれが初めてだったのですが、表現力や語彙、文章力が凄まじくて一気読みしてしまいました。私の語彙力が低くて申し訳ないのですが、本当に面白かったです。長文すみません。本当にありがとうございました！ (2021年9月21日 19時) (
レス) @page30 id: 1ab5df6e8d (このIDを非表示/違反報告)
苺ミルク飴(プロフ) - 完結おめでとうございます！文章力とか語彙力が素晴らしすぎて、何回も読んでしまいます！すごく読み応えがあって、とても面白かったです！素敵な作品をありがとうございました！それとお疲れ様です！他の作品の更新等頑張ってください！応援してます！ (2021年8月24日 12時) (レス) id: 976df8db05 (このIDを非表示/違反報告)
ましゅまろぽっぷ(プロフ) - とっても面白いです！応援しています。更新頑張って下さい (2021年8月4日 12時) (レス) id: 0077bb053c (このIDを非表示/違反報告)
ユキ(プロフ) - いつも楽しく読ませてもらってます！更新お待ちしてます！！ (2021年7月24日 23時) (レス) id: 631cb64e08 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：田中 | 作成日時：2021年7月4日 16時
