メリーゴーランド【うらたぬき】

七周目 ページ8

「Aに触んなっ！」






ぱしっ、男の腕を掴んで声を荒らげるのは、







『わたる…、』






渉の声に、乗客達が何事かとこっちを見る。







「こいつ、痴漢だ！」








「何をっ…」








男の腕を捻る渉に、男が抵抗する。








それを見て、他の大人達が渉に加勢し始めた。








「おい、こいつを女の子から遠ざけろ！」








男が乗客達に拘束されて、渉が私のもとに駆け寄る。







「Aっ、だいじょぶか！？」







一連の流れに着いていけない私は、ぽかんとして渉を見つめた。








『渉……、わた、し、』







口を動かすけど、出てくるのは単語だけで。







渉にお礼を言わなきゃいけないのに、うまく舌が回らない。







「……Aっ！」







ぎゅぅ、と、いきなり、渉が私を腕に収めてきた。






『へ、』







「1人にしてごめんっ…、でも、もう大丈夫だから。……怖かった、よな」








耳元で聞こえる、渉の声。







私の、大好きな声。








『ぅ、あ……っ』








体から急速に力が抜けて、私は力なく渉の胸に顔を埋めた。







『こ、ゎかった………っ…！』








ぼろぼろ、ぼろぼろ。








電車の中でみっともなく涙を流す私に、渉はずっと背中をさすってくれた。

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