8 (hj) 出会い ページ8
ヒョンジン side
上手くいかない。
なにもかも。
たくさん練習してきたのに、
ダンスでミスを連発してしまい撮影は中断になるし、
リハーサルも俺のせいで何度もやり直した。
メンバーやスタッフにも迷惑かけてしまって、
本当に自分が嫌になる。
『はぁ、……』
公園のベンチに座っている俺の大きなため息は、誰にも気づかれることなく消えていく。
「あの」
『？』
「その辺りに財布が落ちていませんでしたか？」
『え？』
誰もいなかった公園なのに、
“あの”と声が聞こえ顔を上げると綺麗な女性が俺に話しかけてきた。
「財布、落としてしまって…」
と困った顔をしている女性は、
俺の事を知っている様子ではない。
まあ深く帽子をかぶってマスクもしているからな。
気づいてない…？
『見てないです』
「そうですか…」
と今にも泣きそうな顔をして
“すいません”と俺に背を向けて歩いて行く。
『…帰れるんですか？』
「え？……ああ、家は近くなんですけど財布の中に家の鍵が入っていて…」
そりゃ大変だ。
時間は23時を回っているし、どうするつもりなんだろう。
『一緒に探しましょうか？』
「え？いや、大丈夫です」
『公園に落としたんですか？』
大丈夫ですと断られたが無視をしてベンチから立ち上がる。
公園に落としたかどうか尋ねれば、
女性は“多分”と自信なさげに呟き下を向く。
『とりあえず、探しましょう』
そうさほど大きくない公園を2人で探すも、財布は見当たらない。
「……取られちゃったかな」
そうベンチに座って悲しそうな顔で呟く女性に、かける言葉が見当たらない。
「探してくれてありがとうございました」
すると、女性はベンチから立ち上がり、
お礼を言い立ち去ろうとする。
お金も、家の鍵もないのに、どうするんだ？
こんな遅い時間に女性1人にして大丈夫か？
『あの、』
「はい」
『……ご飯食べましたか？』
「え？」
ん？何言ってんだ？俺
『あ、えっと……、』
「まだです」
言葉に詰まっている俺に“まだです”と微笑んでいる女性は、“お誘いですか？”と意地悪そうに笑っている。
『もしお腹すいていたら…』
「でも、私財布ないですよ？」
そう無邪気に笑う女性に、つい笑みが浮かんだ。
『ハハ、じゃあ俺の奢りで』
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作者名：Kii123 | 作成日時：2023年3月29日 23時
