あの方からの寵愛【鬼舞辻無惨】

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夢の中での私は とある人の奥方だった



元々家柄のいい娘でね

家の繁栄のために、ある屋敷の息子さんの元に
嫁いでほしいと言われたの

それが当たり前の時代だったから文句は無かった

むしろ喜んで承知したわ


相手は病人で、あまり長く生きることは出来ず
周りから疎まれていたけれど

関わっていくうちに、
彼の不器用さや ふと笑うその笑み、
意地悪だけど、私に気遣うその優しさに心を奪われた


病に蝕まれた貧弱な身体に畝った黒髪

真紅の瞳はまるで熟れた果実

骨張った指が私の頬を優しく撫でるの


彼の全てが愛おしくて堪らない

名前の知らない、私の元旦那様




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･





嗚呼、前世だ。

毎晩見るあの夢は私の前世だったのだ

何故今になって思い出したのだろうか


険しい表情をしていた黒髪の彼と目が合った途端、
私を見て驚いたのがわかった


しかし現実は残酷で、｢だぁれ？｣と
幼い女の子の声が彼の腕の元で言葉を発した

その後ろからは私とは似つかない綺麗な女性が
現れたではないか


だれ？誰なの？
その女は一体誰なのよ


今の心情はまるで夫に浮気された妻のよう

だけど この人にとって私は初対面。
こんな思いを抱くこと自体論外である



男の唸るような鳴き声

女の叫ぶ声

炭治郎くんの必死な声

野次の五月蝿い声


何が何だか分からない。訳が分からない

混乱に陥った私の思考は停止してしまって
時間が止まったように体は思い通りに動いくれない



「Aさん！！Aさんお願いだ！手伝ってくれ！
俺1人じゃ収められないんだ！！」



早くと援助を求めている炭治郎君には悪いが
私は今、指先すら動かせない

定まらなかった視線を上げて、
夢の彼を見つめようとすれば逸らされてしまった

いつの間に人だまりになったこの場は
警官にも目をつけられて、更に大事になってゆく


前世の夫が女の肩を抱いて去っていこうとする

そんな場面を見せつけられて胸が張り裂ける


すれ違い際に肩どうしがぶつかり、「すみません」と言われたが私の聞きたい言葉ではなかった


いつものように名前を呼んできださい

いつものように愛を囁いてください


悪夢から覚めたような焦燥感が私を襲う


炭治郎くんが彼を逃さまいと大声を出した

鬼の始祖の名である｢鬼舞辻無惨｣という名を吐いて

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