距離感【黒尾鉄朗】 (ページ8)

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6話ページ8

｢っわり!!｣

ハッと気を取り戻して顔を赤くして彼女を解放する黒尾。
顔を赤く、いや耳の先まで真っ赤になっているのは黒尾だけではない。倉名もだ。

｢ねぇどうしたの？なんか嫌なことでもあった？｣

先程まで男子の輪の中で王様ゲームを楽しんでいたはずの彼がいきなり抱きついてくる理由が彼女には分からなかった。

｢いや、まじでわりぃ…命令だったんだよ。｣

｢命令？｣

｢…好きなやつを名前で呼んで抱きしめるっつーのが。｣

｢…え？｣

“好きなやつ"って…それってつまり…!?
クラスの視線が一気に2人に集まる。

クラスメートが考えてる事は倉名も思ってしまった。

自分の片思い相手が自分を思ってくれていたら…

それは片思いをしている人にとって最大の願いと期待を背負っているフレーズだ。

｢…けどよ、俺好きなやつとかいねーからとりあえず倉名なら許してくれっかなって!!マジで悪かった、帰りお詫びに何か奢ってやるよ。｣

はぁ……

クラス中から溜息が聞こえた。

なんでこの男は最後の一歩が踏み出せないのか、と。

｢そっか…まぁ…大変だったね。なら許したげる。帰りペピコ奢ってよ!!｣

ここぞとばかりに満面の笑みの倉名。

その笑顔の裏ではそれまで育っていた淡い期待はすべて刈り取られ幼馴染の殻はやはり破れないものなのかという諦めと…少しの安堵で埋め尽くされていた。

｢ほら見たでしょ？私と黒尾はほんとにただの幼馴染なんだから!!恋愛感情云々の前に私達は簡単に言えば兄弟のようなものなの。わかった？｣

｢っ…｣

この2人はこれを機にほとんど一緒にいるところを見られなくなってしまった。