三人娘の日常【 派生作品 】

▼スマイルチェック ページ6

.



「……もうちょっと、こう…上げて……。」


エンリヴェル研究所、化粧室にて。

明るめの証明に照らされ、設置されている壁掛け鏡に映し出されているのは、自分の顔。
ざっくり言えばファンデーションにチーク、そして控えめなピンク色の口紅と、至って最低限のシンプルな化粧を施した自分の顔が、そこには映っていた。
ただ、いつもと違うところと言えば、口角が微妙に上がっていると言う所だけ。上がりきれていない口角を無理矢理引っ張っている顔は、ハッキリ言ってとても不気味だ。

彼女がなにをしているのか。
今の姿を見て、想像がつく人はほぼ居ないだろう。
そして、彼女の今の顔を見て、『笑顔』だと思う人はいるだろうか。
否、それはいないだろう。


＿＿＿＿そう、彼女はただ、『笑顔の練習』をしているだけ。


仕事に行く前、自室の姿見で自分の格好や化粧具合を確認した後、笑顔の練習＿＿＿通称、『スマイルチェック』をするのが彼女の日課となっている。
今日も今日とて、自室にてそれを済ませ職場に出勤してきた彼女だが、御手洗に行ったついでに再度チェックをしていたところ…というのが今現在。

ただ、表情筋が硬いのかなんなのか。
鏡に映る自分の顔は、誰が見ても笑顔だと思わないほどに強ばっていて、それを無理矢理に口角を引っ張り上げているものだから不気味でしかないのだ。
自分ですら、その表情が笑顔だとは思えない。
毎度の事ながら、あまりの無残な表情に本日2度目のため息を零した。因みに、1度目は自室の姿見でスマイルチェックをした時である。


(なんで上手く笑えないんだろう……これじゃ、全然ダメ。)

自分は口数が多い方ではない。
言葉足らずな上に言い回しも下手くそで、加えて表情も固くて無愛想。
だから、「不機嫌」だと「怒っている」と、勘違いされることが多くて、それが嫌で悲しくて。少しでも柔らかい表情を、愛や景のように素敵な笑顔を見せれるようになりたくて…頑張っているというのに……＿＿＿＿。

＿＿＿＿昔から、自分の努力は報われない。



頬に添えていた手が、力なく洗面台に落ちる。
カチャッ、という腕時計が洗面器にあたった音でその思考は一時停止。ゆるりと軽く手を上げて、腕時計に視線をやり時間を確認した。

もうそろそろ、か…。


もう1つある日課の時間が迫りつつあり、気分を変えようと両頬を軽く叩く。
パチッパチッと、乾いた音が響いたあとの余韻だけを残し、彼女は化粧室を後にした＿＿＿＿。

├→←▲

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す