98 ページ1
そんなこんなで、部室はそのままという全員の意見が一致した。雷門は少しばかり不満げに部室を振り返るが、彼女以外の全員が残すと決めたのだ。
仕方がないが、彼らの意思を無下にはできない。
そこへ、円堂が思い出したように走って戻って来た。
「お前の親父さん、良いヤツだよな！」
「あ、そう……ありがとう。」
雷門は円堂の言葉に戸惑いながら礼を返し、忙しなく走って去っていく後ろ姿を眺めた。
グラウンドに向かって走る大神と風丸に、円堂が合流した。
『円堂。理事長の事を、今なんて？』
「え？良いヤツだよなって、言ったけど……何？」
「お前、将来が本当に心配だな。」
「……何だよ、大神も風丸も2人して！」
心底訳が分からない、という様に円堂は1人先に走っていった。速度は気にせず、2人は駆け足でグラウンドに戻る。通路を潜れば、上から雷門中の生徒たちが声援を送ってくれていた。
多くの生徒たちを見上げ、応える様に手を振る。
「風丸さん！」
グラウンドという目的地目前、風丸はその声に脚を止めた。つられて大神も脚を止め、声を掛けた人物を風丸の隣から覗き込んだ。
「宮坂！」
声をかけたのは宮坂了、風丸が元々所属していた陸上部の後輩である。
「久しぶりだな。練習、頑張ってるか。」
「はい！風丸さんも練習ですか？」
「ああ！」
宮坂の問いに、満面の笑みで答える風丸。次の言葉で表情も一変し、一瞬言葉を失う。
「───ウチにはいつ戻るんですか？」
「……え？」
「いやだなァ！サッカー部、助っ人だって言ってたじゃないですか。」
「……ッ。助っ人か、そうだったな……」
宮坂からの視線を逸らし、風丸は少しばかり眉を顰めた。
その様子を一部始終見ていた大神は、風丸の背中を押す。方向はサッカー部が使うのグラウンドでは無く、陸上部が使っているグラウンドの方だ。
風丸は大神を戸惑う様に振り返る。
『先に行って待っているから……』
大神は気遣うように笑みを浮かべた。
風丸が無意識に力を入れていた肩は脱力し、硬直した様に動かなかった脚は1歩前に進む。
『……さあ。』
「……すまん、すぐ戻るから。」
風丸は宮坂と並んでグラウンドの方へと足を進める。
その2つの背中を眺め、大神は前髪を弄った。指に巻き付け、気を紛らわせる様に遊んだ。
『……君が望むなら、どこで走ってもいいんだよ。』
───きっと、円堂だってそう言ってくれるから。
誰も風を縛ることなど出来やしないのだから。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 78人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
鷹羽(プロフ) - コメントありがとうございます~!!!好きと仰っていただけて感激です^^ノロノロペースではありますが、更新させていただきます！ (2021年7月15日 18時) (
レス) id: 338e0ddf16 (このIDを非表示/違反報告)
名前はまだない - コメント失礼しますm(_ _)m 主人公の設定とかめちゃくちゃ好きです！！鷹羽さんのペースで頑張ってください！更新待ってます！ (2021年7月14日 19時) (レス) id: 567784a46c (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：鷹羽 | 作成日時：2021年3月30日 1時
