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「夕香は、去年のFF決勝の日からずっとこうなんだ。」
「木戸川清修と、帝国の試合だったな……」
豪炎寺が円堂に事情を説明する中、大神はじっと眠っている少女を目に焼き付けた。名前に聞き覚えがある、姿見に見覚えがある、その既視感のある少女を。
大神は必死に記憶を遡る。
しかし、目覚めたあの日から遡っても、最後の記憶は金属音、母の悲鳴、感じた痛みしか残っていなかった。
だんだんと酷くなる頭痛に頭を抱える。
「このこと、誰にも言わないよ。じゃ、行こうぜ……大神？」
豪炎寺との話が終わり、円堂は退出するために大神に声を掛ける。頭を抱えたままの大神は、呼び掛けには答えない。円堂が肩を叩けば、息を吹き返したようにゆっくりと呼吸した。
『……あ、円堂。終わったのかい？』
「ああ、終わったけど……大丈夫か？」
『ああ、大丈夫だよ……行こう、早く。』
左手で頭を抑えたまま、右手で円堂の腕を掴んで早足にドアへと向かう。
「……サッカー部、あれからどうなった？」
豪炎寺の問いかけによって、円堂は足を止めた。大神も足を止め、震えを隠すように円堂の腕から手を離す。
「ああ、次の対戦校が決まったんだ。お前のシュートがきっかけで、みんな練習頑張ってるぜ。ありがとな。」
円堂は大神の背中を押して病室を後にした。廊下を歩いて暫くした後、円堂は大神の手を握る。
『……！』
「付き合わせちゃってごめんな、大神。」
『……勝手についてきたのは僕だよ。』
「乗る気じゃ無かっただろ。」
ゆったりとした足取り、安心させる為か大袈裟に前後に振られる繋がれた手。大神の震えは既に収まっていた。
「あの女の子、知ってるのか？」
『……知らない、知らない筈なんだよ。』
しかし、大神にはあの少女に既視感があった。医者の話では、大神はとある少女を庇って事故に遭ったと言っていた。
……ならば、あの子はその少女なのではないか。
そんな仮説───いや、ほぼ確信に近い形で思考する。
大神が事故にあったのは去年の*月**日、豪炎寺の妹が事故に遭ったのも、去年のFF決勝戦の日である*月**日だった。
「もしかして、忘れてるんじゃないか？」
『……だろうね。僕の消えた3年間、あの子を見ているのかもしれない。』
円堂に事故内容を詳しく説明していないため、濁して言葉を口にした。
「無理すんなよ、お前すごく辛そうだ。」
『……気遣い、感謝するよ。君にそんな顔をさせるつもりはなかったんだがね。』
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作者名：鷹羽 | 作成日時：2021年2月19日 3時
