ロスト・パピヨン (ページ8)

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『A！！待て…！！』

｢来ないで！！！｣

飛び出した暗闇は、地面に異常な程の雨が打ちつけられていて

走る足にバシャバシャと水が跳ねてはまとわりつく。

ああもう、スカートなんて履くんじゃなかった

長い丈の裾が汚れて汚いや。

『待ちなさいA、っ、！！』

タイルとレンガの街路に、お父さんの声が響く。

『危ないから戻ろうA！！！な、！！！！！』

何度名前を呼ばれても、

ずっと追いかけて来ても

もう戻らないよ。

3人で、幸せに暮らしてよ

それにあんな事を聞いてしまったら
私だって、もうどうしたらいいか分からないよ、

今更戻れない。

そんな勇気のある子じゃないでしょ？私。
そんな事、お父さんがよく知ってるじゃない

この街路を抜けたら、オリーブ畑が広がってる

小屋の1つくらい、確か端っこにあったはず。

今夜はそこに寝させてもらって
朝になったらそこを出て、友達のソフィの家にしばらく置いて貰えないか、事情を話してお願いしよう。

そんなことを考えながら走り続けて、
やっと石造りの街路を抜けて

オリーブ畑に、足を踏み入れた時

もうすっかり遠くに居なくなったと思っていた
お父さんの声がした

今日で一番、焦ってるような

この時の私は、それがなんでなのか
まだ分からなかった。

『戻りなさい！！！お願いだから！！！』

｢戻らない！！！だから、っ、もう追ってこないで！！！

…お父さん、ごめんね｣

50mくらい離れた場所から、そう叫んだ。

畑の入り口で立ちすくむお父さんは、まだコートを着たままで

新しそうなそれは、雨のせいで
私のスカートと同じくらいグショグショだった。

息が上がって激しく上下する肩も
水溜まりだらけの地面に落ちた膝も

私が見てきたかっこいいお父さんなら絶対に見せない、

絶望の淵に追いやられたヒトの姿。

2人の頬に伝う水滴は、雨なのか涙なのか

もう分からなかった

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