Nectar【川村壱馬】

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マ「来てくれたんだね」


壱「なかなか来れなくてすみません」









被っていたニット帽を取って、ペコリと頭を下げた









ノーセットの黒髪がさらりと靡く









マ「まあ、好きに座ってよ」









はい、と返事をした彼は、私の事を見ながら、カウンター席へと腰を下ろした









「……」









目の前に現れた人物に、
ただ驚く事しか出来ないでいると









マ「裏に特別な豆を取りに行こうかな」









ニヤニヤという表現が一番見合った笑顔でそう言って、マスターは裏の倉庫へと消えて行った









「…おしぼり、お持ちします」









急に訪れた二人きりの空間にふと我に返り









彼の視線が此方へと向く前に、急いでカウンターの中へと入り、保温機へ向かった









温かいおしぼりを取り出し、シルバーのプレートに乗せて振り返ると、頬杖をついた彼と目が合った









漆黒の瞳は、しっかりと私の姿を映していて









その奥では、何を思っているのだろう









「どうぞ」









緊張で、目を合わせる事が出来ぬまま、おしぼりのプレートを彼の前へと置こうとすると









壱「なぁ」









急に声を掛けられて、思わずガシャンッ
と音を立てて落としてしまう









壱「何でそんな緊張してるん？」









ふ、と笑った彼









壱「俺の事、教えてあげるって言ったから？」


「…違う」


壱「じゃあ何で？」









まるで悪い事をした子供に問い詰めるようだけど









何となく、優しそうな声を出すものだから









思わず、貴方に恋をしている事を
打ち明けてしまいそうになる









「…かずま」


壱「…ん？」


「名前、かずま、で合ってる？」


壱「ん、川村壱馬」









……素敵な名前









壱「A」


「え…」


壱「ちゃんと覚えてんで」









そう言って小さく笑うと、頰にえくぼを作った









……なんだろ、なんか









カッコいい、けど、可愛い









こうして、色んな表情に魅せられる









「あの…」









カウンター越しの彼の目を見つめると
小さく首を傾げられて









「もっと、教えて……壱馬の事」









高鳴る胸を押さえながらそう言うと









壱「…もっと知ったら


離れられんようになるで？」









クスクスと、いたずらに笑って見せた









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