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そう言って、僕を見つめる。
『僕さえ要れば、この会社は回る。この発言を、撤回して下さい』
彼女は、怒っていた。
『今この会社があるのは、伊沢さんを筆頭に皆さんで頑張って来たからです。僕だけの力ではありません。そもそも僕が勧誘を受ける前から充分に機能していたのだから、河村さんが言ったようなことはあり得ないんです。
河村さんを含めて、みんなここにいなくてはならない存在です。誰一人として欠けてはいけない。もう絶対に、言わないで下さいね』
彼女の言葉を聞き、心が少し晴れた気がした。
『きっと僕なんていなくても、この会社はやっていけますよ。ここには、河村さんがいますから』
ただ、最後にこの言葉を言った時、彼女の表情は少し曇っていて。それに、僕の不安も煽られて。
気づけば、抱き締めていた。
『河村さん？』
河村「すみません。少しだけ、このままで」
『....気が済むまで、どうぞ』
彼女の言葉には、人を勇気づける力がある。それは、彼女も同じ立場を経験しているからだろう。後継者にならなければいけない彼女は、誰よりも将来に不安を抱いている筈だ。人を励ましている余裕なんて、本当は微塵もないのかもしれない。
河村「....すみません。もう、大丈夫です」
『満足頂けたようで』
河村「Aさん」
『何でしょう？』
河村「ありがとうございました」
『いえ、良かったです』
側に置かれたカップを手に取る。
河村「また、淹れてくれますか」
なんとなく聞いた、また飲みたかったから。
でもこの問いに、彼女がはっきりと返事をすることはなかった。首を縦に振ったものの顔は暗く、思い詰めたような表情をしていて。胸が、苦しくなった。その姿に疑問を抱いたが、僕の見間違いかもしれないと、あまり深く考えずいた。心中で感謝すると、彼女がソファから立ち上がる。
『行きましょうか』
ふわっと笑う。
河村「笑顔、増えましたね」
『そうでしょうか？』
河村「美しいです」
『ありがとうございます』
色々な事情を抱えた不思議な女性。
そんな彼女に僕は、ずっと興味を持ち続ける。
この時、彼女の笑顔が増えた理由と僕に言った言葉の意味に気づいていれば、彼女に紅茶を淹れてもらうという約束を果たせたのかもしれない。
どこまでも僕は、無力だ。
・
あとがき なかったです
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