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伊沢「なぁ桜舞」
『何でしょう』
伊沢「最近どう、なんかねぇの？」
『何ですかそれ笑。QuizKnockですか？』
伊沢「何でもいいよ。なんかない？」
『そんな急に言われても。まぁ、楽しいですよ』
困ったように笑顔を見せる。こういう時、いつもなら微笑むレベルだった。若しくは無表情。それがこんなにも綺麗に笑うようになって。
本当は嬉しい筈なんだが。
彼女の口から出てくるのは仕事のことばかりで、それもQuizKnockのこと。自分の会社のことや大学のことは微塵も話さなかった。
『こんな感じですかね』
伊沢「そっか。じゃあ最後に一つ」
『何ですか？』
伊沢「プレゼント、本当になくしたのか？」
『....もう良いじゃないですか、その話は』
今、明らかに動揺した。
空になったカップを手に取り、持ち手部分や淵を弄り始める。数分の間があった後、伝票を持って椅子から立ち上がった。慌てて追い掛け、彼女の手からそれを奪う。普通に払おうと思ってたし、桜舞を止めなきゃいけなかったし。
伊沢「その反応、やっぱなんかあった？」
『そのことには触れないで下さい。僕はショック受けてるんですから。人にプレゼントするものをなくすなんて、言語道断ですよ』
伊沢「俺はそういうことを聞いてるんじゃない」
店内の視線が一気に集中する。
伊沢「....取り敢えず出よう」
レジで代金を払い、お釣りは受け取らずに彼女の手を引いて店を出た。おかしいのは分かってる。桜舞の言動も、彼女に対する俺の態度も。全部が全部、おかしいんだよ。
『伊沢さん、痛いです』
その声が聞こえるまで、どれぐらい歩いたのか。気づけば夕暮れ時の街にいた。目の前には公園があり、後ろには少々息を切らした桜舞が。驚いて手を離し、ゆっくり背中を擦る。
伊沢「落ち着いた？」
『はい、大丈夫です』
伊沢「ごめん....」
『謝らないで下さい。伊沢さんらしくないです』
伊沢「それ失礼じゃね？」
『いつものことですよ』
自販機で買った天然水を渡し、ベンチに腰を下ろす。誰もいない静かな公園に立つ木々の葉が風に揺られ、ただ呆然とそれを眺めた。隣に座る彼女もまた、俺と同じように葉を見つめている。
その横顔があまりにも綺麗で、可愛くて。それから、辛そうで、苦しそうで。俺はこの時に桜舞が見せた感情を、読み取ることが出来なかった。
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