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入学式当日。朝起きてご飯を食べて家を出た。いつもと同じ朝。ただ違うのは今日から中学生ってことと、隣にAがいないってこと。
あの日Aが見せた涙は多分、一生見られないだろう。大丈夫やろうか、あっちには父親も一緒に行った筈。
重すぎる将来を抱えた彼女はまだ12歳、俺と同い年だ。苦しい時にそばにいてあげられないのはしんどい。俺はやっぱり無力だ。
Aがいない日々は何か物足りんくて、つまらんかった。その隙間を何かで埋めたくてクイズ研究会に入った。
桜陰にもクイズ研究会があるらしいから、もしかしたら会えるかもしれない。初めて出場したクイズ大会で出会ったのは将来自分の上司になる人と、桜陰の制服に身を包んだ白髪の彼女。
大会が終わった後、俺は桜陰のチームを探して会場内を走り回った。
川上「A....?」
振り返った彼女は俺のもとへ駆け寄ってきた。
『久しぶり、拓朗』
思わず抱き締めてしまった。会えたことが嬉しかった、久々に会えたことが本当に嬉しかった。
その後も何度かクイズ大会で会うようになった。彼女はやっぱり完璧で他の人が全然分かっていない段階で押して正解する。伊沢さんも驚いてた。
川上「次の大会いつやっけ?」
『1ヶ月後、幕張メッセでしょ』
記憶力も健在で、時間や出場する学校まで全部教えてもらった。元気そうに話す姿を見て、家の方は少し落ち着いたのかと安心した。
川上「じゃあ1ヶ月後な」
『うん、またね』
手を振って別れる。次にまた、会場で必ず会えるって分かってたから。
1ヶ月後、Aは桜陰のチームの中にいなかった。連絡を取ってみても電話番号は使われていないと返ってくる。伊沢さんにも連絡は来ていなかったらしい。
桜陰の人達に聞くと、Aはアメリカ留学に行ったそうだ。何でもハーバード大学に受かったとかなんとか。いつ帰ってくるかは分からない。
あの父親のことだ、また急に決めて連れていったんだろう。Aのことを自分の操り人形としか思っていないくせに....。
これでまた、俺の日々はつまらなくなる。そう思いながら、俺はまた早押し機を押し続けた。
俺があいつと再会するまで、あと4年。
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