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「……………」
切人と縁切は大広間の襖の前へ来ていた。
三十分ほど前にここは通った、通ったはずなのだ。
そこで誰も居ないと、気配がないと、運動会の表彰台に立って叫べるくらいには断言できた。
それが目の前の部屋からは笑い声が聞こえる。談笑する声がする。酒を持ってこいと、つまみを持ってこいと、大声で言ってる。気配もたくさんある。
(これじゃ、まるで)
「……普通の本丸だな」
縁切が、ぼそりと声を出した。
「えっ」
「あ？」
それが原因か、否か。声がピタリと止まったのだ。気配も感じられなくなった。
切人はなにか言いたげな顔を縁切に向ける。
「…………縁切」
「……俺のせいじゃない、やめろその目」
「兎に角、なかをみてみよう」
切人は襖に手をかけて、今度は普通に開く。
大広間のなかは宴会かなにかをしていたようだ。食膳が、ずらりと綺麗に並べられていた。メインは肉料理のようだ。
「……うっぷ、」
「やめろ、ここで吐くなよ、吐くなら外で吐け」
見た目は普通の肉だが、あの厨の壺の中を知らなければ、牛の肉か、豚の肉かと勝手に脳が判断して、違和感を覚えなかったのに。
気持ち悪くて、少し後ずさった先には酒瓶があった。切人はそれに気づくことなく。酒瓶をかかとで倒してしまった。
「あ」
酒瓶の中身を畳にぶちまけてしまった。赤いそれは畳に染み込んでいく。切人は無言でさっ、と手で口をおおった。
縁切もおおった。
中のものを美味しそうに飲むのを想像してしまったからだった。
二振は縁側へでる障子へと走る。
「ふすまっ、あけっ」
「もうあけっ、うおぇぇ」
きらきらきらー。
二振りは間に合わず、障子に手は届かず、無惨にもその前で嘔吐してしまった。
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作者名：お清 | 作成日時：2019年5月30日 13時
