調査官はブラック本丸へ派遣される。 (ページ15)

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「おかえりなさい、調査はどうでしたか？」

「済んだ。念のため浄化班を派遣してくれ」

　ゲートから出れば、すぐさま報告書の用紙を渡される。が、切人はそれを押し返し、逆にファイルを職員に投げるように渡した。

「報告書はもう書いた、あとは任せる」

「え、あっ、わかりました！」

　
　縁切は浄化班派遣要望の札を渡していた。

「縁切、走る」

「廊下は歩けバカ」

　燭台切様の新作の味見、切人と縁切の胸はそれでいっぱいだった。

ーー

　食堂の厨房に入ると、エプロン姿の燭台切がいた。

　彼は一応、切人や縁切とは別の部署だが同じ戦闘系の部署で、非番のときはよく厨房を手伝ったり、料理をして日々楽しそうだ。この前なんか長船派(長義含めた)一家でフランス料理店に行ったらしい。

　こちらに気づいた彼は、にこりと切人と縁切に笑いかけた。

「おかえり、切人くん縁切くん。もうすぐできるから」

　手を洗っておいでと、ボウルの中のひき肉を混ぜこんでいた。

　いつもならばその笑顔で心を矢で射ぬかれたような錯覚に陥るのだが、いまはそれよりも、ひき肉のほうに目がいった。

　赤い、肉だ。

「……っう」

「うっ、ぷ」

「どうかしたのかい？二人とも」

　顔色が悪いよと混ぜていた手を止めにちょりと手を抜いてボウルを置いた。

　にちょり、にちょり、にちょり。

　脳内ではリピートされるかのように何度も響いた。

「うっ、あっ」

　目尻に涙がたまる。

(ここで吐いてはいけない、吐いてはいけない、吐いちゃだめだ)

　吐く前の胃液がまた涙を出させる。腹がひくりと動いた。

「んっ、んぐ」

　手でバチンと口を叩いて酸っぱさを喉へ流し込む。ぱちくりと燭台切の目が見開いた。

　縁切の袖をがっしりと掴んで、出来うるかぎりの笑顔を作った。

「燭台切さま……手を洗って、参ります」

　びゅん、切人の起動により縁切は浮いた。