23話 「他人の痛み」 ページ25
で、海に出た俺は先にポイントで待っていたばあちゃんと合流したわけだ。因みにウエットスーツ着用である。死んだ旦那さんのが奇跡的にサイズぴったしだった。マジで奇跡すげえな。ばあちゃんは漁業権を持っており、取っていい魚や取ってはいけない貝のサイズなどを教えてくれた。モリの使い方は以前の世界で経験済みだし、なぜか息もあの頃と同じくらいにもつ。いまだに引き継がれている基準が分からない。
「おお、上手だねえ!」
『結構大きいんじゃねえの!?』
「アタシも、負けてはいられないねえ!!」
『あ、そういえば。ばあちゃん名前はなんていうの?』
「アタシかい?アタシは喜代っていうんだ。キヨばあでいいよ」
『わかった!俺は歌龍Aだ』
「Aちゃん、だね。ばばあの脳内にしっかり刻んだよ」
皺の刻まれた顔で豪快な笑顔を見せるキヨばあ。
呼ばれ慣れたその音に心が甘く痛んだが、気づかないことにした。
息を吸って海の中へ。やっぱり俺は、海が好きだ。自由で、何者をも拒まず、平等に包み、命を育み……時に殺す。そんな海が好きだ。ぷはっと海面に顔を出せば、まぶしい太陽が照らしていた。
俺も、そうでありたいと何度願ったか。はは、今となっては昔の話だけど。
「ほぉら、大きなのが取れたよ」
少し遅れて海面に上がってきて、自慢げに大きなサザエを見せるキヨばあに笑顔を向けた。
三時間ほど素潜り漁に精を出し、獲物は一旦キヨばあの生け簀に預けさせていただいて、俺とキヨばあは銭湯に来ていた。髪の毛と体を洗って湯船に浸かれば、疲れがじわじわと溶けてゆく錯覚がする。いや、錯覚じゃないきっとリアルだ。
「Aちゃんはどこに住んでるんだい?」
『今はこの近く』
「そうかい……ずっと思ってたけど、綺麗な顔をしてるねえ」
『そ、そうか?』
「ああ。とってもきれいで羨ましいくらい」
清々しく笑うキヨばあになんとなく気になっていたことを聞く。
あんまりプライベートに踏み込むのはよくないって分かってるけどね。
『キヨばあ、家族は?』
「旦那が死んでからは一人だよ」
『子供さんとかは?』
「娘がいたけどねえ……」
『………そうか』
会話が止まってしまった。
キヨばあが抱える悲しみや寂しさと全く同じとは言いきれないが、似たような感情ならば俺も分かる。俺も、一人だった。一人に突然なってしまった人間だった。
ふと自分の右手を見る。この手が真っ赤に染まった過去がフラッシュバックした。
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カルラ - ゴファッ!! なんだこれは、、、、、 めっちゃいい! (2019年5月22日 16時) (レス) id: 92a66c530f (このIDを非表示/違反報告)
作戦隊長(プロフ) - たぬきなたぬたぬさん» ありがとう……ございます……(´;ω;`)これからもよろしくお願いします! (2019年3月2日 13時) (レス) id: 9eca42e73b (このIDを非表示/違反報告)
たぬきなたぬたぬ - ほんとに.....なにこれ......すき.......。 (2019年2月26日 21時) (レス) id: 83afc62697 (このIDを非表示/違反報告)
作戦隊長(プロフ) - だまこさん» 理鶯推しがここにwありがとうございますw (2019年2月18日 18時) (レス) id: 9eca42e73b (このIDを非表示/違反報告)
だまこ(プロフ) - 理鶯が1番好きなんじゃあ (2019年2月18日 17時) (レス) id: 3c83364c40 (このIDを非表示/違反報告)
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