36幕 ページ37
「命が惜しくなったのなら、志穂にかけた心の一方を解け」
志穂は堪らなくなり地面に倒れ込んだ
「俺ではもう解けん、」
刃衛はしばらく溜めるように口を噤んだ
同じ心の一方といえ、今までとは程度が違うと薄ら笑う
自力で解くか、術者を殺すか方法は二つに一つ
「もっとも前者は、不可能だろうがな」
それは幕末の世を脅かしめた抜刀斎の威名も、不殺と誓った今となっては己を苦しめる最もたるものであると、すでに悟っている風であった
「け、ん…しんっ」
それから志穂は古びた地蔵の足元にうずくまったまま、二人の姿を見つめた
「ならばお前を、殺すまでだ」
その言葉を聞いた刃衛は、ぶつぶつと何かを唱え出した
するとその身体を纏う熱が、気迫が途端に上がっていく
それは離れた志穂にも分かるほど
心の一方 影技 憑鬼の術ーー…
血塗れの二人を松明が照らし上げる
その術を使い振り返った刃衛は、おどろおどろしい妖気を身に纏っていた
だが剣心は目の前の敵を斜に構え、半眼で見据え、刀を納める
肩の血と泥とにまみれた右手を構え、真白な息を吐きながら絞るように言った
「…どんな技でも好きなだけ使え。だが…俺が殺すと言った以上、お前の死は絶対だ」
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