28幕 ページ29
「眠れないな…」
剣心と左之助が陸軍省の谷 十三郎の護衛に出掛けて行った夜中
志穂はそっと瞳を開いて布団の中で寝返りを打った
この妙な胸騒ぎはなんだろうーー…
まさか彼の身に何か起きているのでは…
静かな夜は嫌な予感が纏わり付いて離れない
志穂はたまらず起き上がると、羽織りを肩にかけ縁側に寄った
- おわかりでしょう。達人の振るう殺人剣が、如何に恐ろしいかを… -
今更になって浦村署長が何となしに言った言葉が強く蘇る
戦は死ぬためにするのではない
殺さねば殺されるから、そこに戦は起こるのだ
死にたくないから、人を斬る。
過去に座敷の席で、そう話していた者がいた
皆がそうとは限らないだろうが、ならば人は斬らぬと決めた剣心はどうなるのだろう…
人が剣という得物を手にしてより幾千年
その間にあまた現れ消えた剣客たちは、
人を斬らぬと決めた瞬間に斬られていったのではあるまいな
酒の相手をした男たちは皆、刀をかざして戦場を駆け、敵弾の中に身を晒して知れきった往生を遂げていった
「幕末の夜は、闇に押し潰されそうなくらい真っ暗やったな…」
愛しい人が明日にも死ぬかもしれない動乱の世に、女たちはただ泰平の世を願ったのだった
「時代がどうの誇りがどうの、もう沢山やから…剣心、戦でだけは死なないでね…」
志穂は見えもしない夜空を仰いだ
103人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ