*ﾟスミレの花をあなたへ F9

２８輪＊折り返し ページ28

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side:you




「う、わ……」



思わず声を上げたのは……着信の相手が、
その……卓さん、だったから。

とくん、と高鳴る胸に気付かぬふりなんて
できなくて。……どうしよ、手汗、やばい。



「？！ 卓ちゃんじゃないっ！」
「う、ちょっと、西崎ちゃ」



出なよ出なよ！ とそれはそれはノリノリで、
今にも私の携帯に手を伸ばして、画面を
タップしそうな勢いで。
それだけはダメっ、となんとか躱して
スマホをポケットに逆戻りさせた。



「ちょっと、なんでしまうのっ」
「や、だって仕事中だよ？！」
「いいって、ちょっとくらい！ 仕事は私に任せて、トイレ行く振りして出ちゃいなよっ」



ダメだって！ と、そう言っている間に、
虚しくも、着信音は消えてしまった。
……残念、とか、出ればよかったかも、とか
そんなこと……思ってない、けど。



「……ほんとに卓ちゃんと色々あったんだ」
「うるさいなぁ。ないってば」
「だってねぇ……歌う事しか脳のないあんたが……」



歌う事しか脳のないって……それは流石に
酷いんじゃないかい、西崎ちゃんよ。
……自覚はあるけど。でもでもでもっ、
こう見えて、料理も得意なんだよ？



「今日確か、デーゲームだったっけ。それなら、あと一時間で試合始まっちゃうよ」



試合前に、Aの声、
聞きたかったんじゃない？ ……って、
そんな事、あるはずない。ないじゃない。

……だけど、なんで、心臓鳴り止まないの。
なんで、……ちょっとだけ、期待してるの、



「あと20分で休憩だから、そしたらかけ直してみなよ」



んー……でも、そうしたら試合開始40分前、か。
ギリギリだなぁ……出てくれるかなぁ。

と、何やらひとりで思索している西崎ちゃんを
横目に、私は何も考えないように黙々と
手を動かした。





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「で！！ やってきましたよAさん」
「……なにが」
「何がって……休憩だよ休憩っ！ 電話、折り返しちゃえっ！」



言われるとは思っていたけど……。
まさか、本当に、折り返す……？！
だってだって、西崎ちゃん曰く、卓さんは今、
試合前。一番集中してて、電話なんか迷惑な
時間かもしれないのにっ。



「……Aがしないんなら、私がかけちゃうからね〜」



おどけた声の西崎ちゃんを見ると、
……え、ちょっと待って。なんで私のスマホ
持ってるの！



「こんなんじゃ、すぐスられちゃうんだからね」
「ちょちょちょ、返して！」
「かけ直すなら、返す」



そう言う西崎ちゃんの目はマジで、
あぁこれはもう逃れられない、と。
私は小さく頷いた。





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