*ﾟスミレの花をあなたへ F9

３輪＊知らない人だけど ページ3

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side:you




昔から、歌うのが大好きだった。
……ううん、違うな。
歌で周りを笑顔にするのが、好きだった。


小さいころ、
覚えたての歌を家族の前で披露したら、
皆が笑顔になってくれて、
あったかいなぁって、感じて。


それからずっと、
私は歌の魅力に惹き込まれてる。




テレビをつけたら、大体どこかのチャンネルで
歌番組をやっていたりするから、
毎日食い入るようにみてたりした。


そこで歌を届ける人たちは、
みんな、みんな……輝いて見えた。




人に共感してもらえる歌。

人に勇気を与えられる歌。

人を感動させられる歌。

人を笑顔にできる歌。


人を……幸せにできる歌。




そんな歌が、
私にも歌えたらいいなぁなんて、思ったり。



具体的に、歌手になるために
オーディションを受けよう、とか
そういうことはしてこなかったから、
今では叶わぬ夢になってしまったけど。



それでも、ほんの近くの、大切な人にだけでも、
笑顔にできたりしないかなぁ、って。

そう思って、ふと浮かんだメロディを
素直に唇に乗せてみたりして。


〜♪ 〜♪


雨上がりの空を

見上げると ほら

澄んだ青が 眩しくて

やっと 気づいたの

切ない夢 見てた


〜♪ 〜♪


……なんて、流石に、
こんなマンションの通路で
歌ってたりなんかしたら、迷惑だよね。


思い直して、口を噤むと。



……ばっちりと、目が合った。


誰とって……？
……知らない人、だけど、
向こうはまるで、
私の事を知っていたかのように驚いた顔。


やだな、
そんなに変な歌、歌ってた……？



暫く……数十秒くらいかな、
お互い何も言わずに見つめ合って、
そしたら、彼は我に返ったように咳払いをした。



「……あの、」
「は、い」
「……歌、好きなんですか？」



……何を聞かれるのかと思えば、
そんな……安直な質問。

突然向かってきた変な台詞に、
私は思わず、へ？ と聞き返しちゃった。





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