ヒプマイ短編集 (ページ5)

今日:1 hit、昨日:0 hit、合計:434 hit

．．5 （完）ページ5

「......恋人のフリしてた時は、一緒に買い物とか軽く抱きしめるとかはしたけど、それ以上のことは当然しませんでしたもんね」
『あの......』

「こんな夜に、一人暮らししてる家に男を呼ぶって、意味分かってます？」
『い、一郎くんは、そんな......」
「俺のこと、歳下だからって弟みたいに思ってました？」
『私は......』
「......俺、弟で終わるつもりも、恋人のフリで終わるつもりも無いっすよ」
『え......』
「俺は本気でAさんのこと狙ってるんですけど」
言いながらAさんの唇をなぞるように親指を動かす。
その行動で赤い顔をさらに赤くするAさん。
ほんと、可愛いな。

ここまで言って、さすがに知らないふりは出来ないだろう。
ソッと手を離す。
Aさんは固まって動かない。
「あー......今日は帰ります。急に変なことしてすみません。でも、今言ったことになんの嘘もないんで」
そう言いながら立ち上がり玄関に向かう。
流石にやり過ぎたか？
正直、名前を呼んで欲しいとしか思ってなかったのに、ここまで言っちまうなんて。
玄関で座って靴を履いてると、突然背中に重みがかかる。

は......？
ゆっくり振り返ると、Aさんが後ろから抱きしめていた。
『わ、私だって他の男の人なら、こんな時間に家にあげたりしないよ......！！』
「えっ」
『一郎く......一郎だから、だよ」
は、え。
何この展開。
動揺から一気に心拍数が上がる。
俺だから......？

「えっと、つまり......？」
『っ......私も恋人のフリで終わりたくない、です』
「......まじか」
こんな良い日があっても良いものか。
Aさんに腕を離してもらい、ゆっくりと向き直る。
ついさっきと同じように親指で唇を触る。
「良いってことだよな」
聞くとAさんは静かに頷いた。
『......あ！！』
ゆっくり近づくとAさんが突然声を上げ唇を抑えられる。

『あの......その前に一つだけ...…』
「なんすか」
『その、敬語と、名前......私も、ずっと恋人のフリしてた時みたいに、呼び捨てにして欲しいって思ってた』
それを聞いて少し笑ってしまう。
なんだよ、俺ら、同じこと悩んでたのかよ。
「A、好きだ」
これからは、フリじゃなく、本気の気持ちを込めてーー
そう言ってから、ソッと唇を重ねた。