【０】遠望の風音 [ｶﾉﾝ] ＊Prequel＊

...古伝の潮音... ページ6

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ああ、もう疲れてきた。

何十分とそうしていたかなんて数えていないけれど、小さくため息をついた私は
ふと目を開き、目の前で小さく揺らぐ青い水面を見つめた。


それから気分転換と思って、空を仰ぐように頭上を見上げる。
でも建物の中じゃ真っ白な天井しか見えず、すぐに諦めて視線を落とした。

──まあ、建物の外に出たってこの街の中じゃあ空は見えないのだけども。



「ほら詩音様、また集中が途切れていますよ」



そう私が明らかに手を休めていれば、
付近に立っていた女性二人の内の一人が見兼ねて口を挟んだ。

ああ、本当に、どうしてこの歳頃の女の人ってこう口うるさいのかしら。
自分でも理不尽な苛立ちだとわかっていながら、それを微塵も隠さずに言葉を返す。



「もう、出来るようになったのだから良いじゃない。疲れちゃったし」

「それでも、まだ完全ではありません」


「女王様はいつ如何なる時も、必要とあらば自在に水と意識を通わせられるのです。
ですが、詩音様はまだその域まで達しておられませんよ」

「はいはい、貴方達がお母様の事を大好きなのはわかったわよ……」



──聞いた通り。ここは水と共に日々を過ごす、謂わば海の街と言ったところ。

この街は代々女王が治め続けていて、特に水や景色の美しい場所だと評判らしく
観光客は年々絶えないけれど、住み慣れて居る此方としては何が良いのか疑問な所。



「詩音様も女王様の子ですから、非常に才能に恵まれているのですよ。
それなのに貴方様が修練を放棄されてしまっては、女王様も悲しまれますわ」

「ええ…………」



そして幸か不幸か、私は女王様の娘として海の街に生まれ落ちてしまった。
女王の家系は、産まれた時から水の声を聞く力が備わっているという事らしい。

けれど最初から完全な筈はないし、使わなければ徐々に衰えてしまうようなこの力。
だから今、こうして好きでやっている訳でもない訓練をさせられているのだけど。



「折角のお立場なのですから、ここは一肌脱いで身を投じてみるべきです」

「そうね…………」



他人事だと思ってあれこれ言ってくれちゃって、まあ。
水の声を聞くのは、誰が想像するよりも集中力を必要とするものなのに。

きっと力を持つ者にしかわからないのだろう苦労を言い訳にしても無駄だろうと
付き人、二人のお小言を適当に聞き流し始める。

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