【０】遠望の風音 [ｶﾉﾝ] ＊Prequel＊

...遠望の風音... ページ42

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私は、少し裕福な家柄の下に生まれ落ちた一人娘です。
ですが普通に育ち、普通の人として普通の街で暮らしてきました。

もちろん家が裕福な分だけ使いの者が居たり、身の振り方を
教えられたりはしてきましたが、その他は本当に至って普通に過ごしていました。


まだ立派に育ったとは言えない歳頃からずっと一緒に居た、颯太と共に。

ただ、私には一つだけどうしても拭いきれない不満な点がありました。
周囲の友人や顔見知りの者達は、私と両親の姿を見ては口を揃えてこう言うのです。



“貴方、父親とは似ても似つかないね”──と。



思えば確かに、緑の髪と青の目を持つ私と母に対し、父は赤い髪と黒の目を
持っていて、顔つきこそ特別似たようなところは無かったのでした。

──同じ家の中で暮らして来た時間がこちらの方が長かったからか
性格や仕草も、母親に似ていったんじゃないかとよく言われます。

それでも、やはり物心ついた時から父の子としても育って来た私は
どうしても納得がいかなかったのです。



「本当に私は、お父様とは全く似て見えない?」



ある日、私はお父様自身にそう問いかけた事がありました。
幼心ながらに周囲の反応を気にして。

それでいてこの言い方は父に対し、幼いなりに直球過ぎました。
しかし父はそんな私の言動も気にせず、大らかに笑い受け流そうとします。



「そんなに私に似たいのなら、そのように整形でもしてもらえば良いのだよ」

「整形だなんて! 軽々と仰らないで」



それじゃあまるで答えになっていない、と私はむくれました。
父に今回の事を聞いた自らの愚かさに気づき、それを後ろめたく思いながら。

──あまりに大らかで優しいお父様は、この私の思いなんて知らない筈です。



「はは、私もお前が“そうしたい”と言いだしたならどうしようかと思ったぞ」

「もう! それならそのような事を言い出さなくても良いじゃないですか」



子供の可愛さあまり、だったのでしょうか。
まだ人の親にはなれない今の私にも、当時の父の心境は想像がつきません。

ただ、私がどんな反応をしても父は優しく笑っていて。
心のどこかでは安心していたんだと思います──ああ、私は愛されているのだ、と。



「──どんな姿だって、お前は私達の可愛い子供さ」



私と目線を合わせる為に屈んだ時に、より近くに見える父の黒の瞳。
そして私の頭を撫でる片手は、きっと他の一般男性よりゴツゴツとしている。

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