【０】遠望の風音 [ｶﾉﾝ] ＊Prequel＊

＊ ページ37

「(……最後の頁。ありがちな仕掛けというべきか、或いは
俺が中身を飛ばして、真っ先に此処を見ると見透かしでもしたというのか……)」



後者だとしたら少しばかり癪ではあるものの、どちらだって構いはしない。
何にせよ見つけた。この本の最後のページの遊び紙に、たった一言だけ。


──“鍵は、夢を追い求めた者達”。


しかもこれは印刷によるものではなく、明らかに手書きにより付け足された文字。
本文が縦に書かれているのに対し、この一言は横に記されているのも裏付けになる。

十中八九、先ほど凪斗の目の前に立ちはだかったあの男が書き足したものだろう。
それにしても意図の掴み辛い一言だ、奴は此方に気付いてもらいたいのか否や。



「(…………鍵は、夢……?)」



此処で言うところの夢……夢とは、“アーラ”の事で間違いない。

だとしたら、鍵はアーラの存在を追い求める者だと伝えたいらしいが
アレを求める者など、それこそどれほど居るかわからない。


敢えて“追い求めた”と過去形にしている部分や、
“者達”と案の定と言うべきか複数人居るらしい表現も気になる。

そもそも、鍵と言うのもアーラに繋がるヒントの事を示しているのだろうが
これを渡していた者はどこまで本気なのか。



「…………“アーラ”……か」



──自分で口にするのはともかく、他人が言うのを聞くと無性に苛立つその名前。

何年も前から噂になり、話題の中心になった時期も嘗てにはあったアーラは
現在でも、人々の記憶の中で言葉としてのみ居座り続けている存在だ。


凪斗の認識にもあの存在は入ってきて、探偵となった彼に依頼として持ち掛けられた
時には、誰も見つけられていないという事実も手伝い調べた記憶がある。

しかしやはり資料や人々の中の存在でしかなく、手掛かりも何もなかった。



「(俺が本当にアーラを探さなくてはならないのだとしたら
時はいずれ向こう側からやってくる……そう、まさに鍵を握る者達が)」



己が探偵である以上、何も此方から出向かずとも機は巡って来る。

そうでなかったとしても、先程の男が真にアーラを求めているならば
待ちかねた彼奴が再び目の前に現れる可能性が高い、完全に相手の二度手間だ。

強引に渡された本も邪魔と言えば邪魔なのだが、一応貰っておくとするか。
本を脇に抱えた凪斗は、今在る依頼の達成の為に足を踏み出した。


今は、これに現を抜かしているよりも大切な事がある。





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...信念は颯爽と...→←＊

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